こうしてビアンカは、五人の行きつけだという居酒屋へ連れて来られた。パルテナンド王国では、十六歳が成人とされるため、全員飲酒が可能なのだ。ビアンカも十六歳になったばかりの頃、人生経験という名の下、父に居酒屋へ連れて行ってもらったことがあるが……。

「このお店、ずいぶんお安いんですねえ」

 メニューを眺めて、ビアンカは思わず口に出してしまった。よく考えれば、奢っていただく身で失礼なのだが、そこには目を疑うような激安価格が並んでいたのだ。すると、ジョットがこともなげに言った。

「この店、酒を薄めてるから」
「――はい!?」

 目を剥くビアンカを見て、アントニオは気まずそうに笑った。

「悪いな、こんな店しか連れて来てやれなくて」
「い、いえ! こういう所って、ほとんど来たことがないので、珍しくて楽しいです」

 本音である。ビアンカは、きょろきょろと店内を見回した。すると、飲食を終えた客の一人が、スッと立ち上がった。会計をして出て行くのかと思いきや、なぜか厨房へ入って行く。

「自分で洗い物をすると、さらに安くなるシステム」

 チロが補足説明してくれる。ほほお、とビアンカは感心した。酒を薄めるのはともかく、これは合理的かもしれない。今度、父に教えてあげようか、とビアンカは思った。カブリーニ領でも、流行ったりして。

「皆、ビールでいいな? ビアンカは?」

 アントニオが尋ねる。私もビールで、とビアンカは答えた。飲みたいというよりは、『薄めたビール』とやらを体験してみたかったのだ。

 注文から程なくして、六つのジョッキが運ばれて来た。目を凝らして見れば、確かに通常のビールより色が薄かった。そして、異常に泡の量が多い。

「では、ビアンカちゃんの本採用を祝って、乾杯!」

 ジョットが音頭を取って、一同は元気よく乾杯した。

「おめでとう」
「これから期待してる」

 五人は、口々に祝ってくれた。それぞれに礼を述べながら、ありがたくジョッキを口に運ぶ。味は……、ビールと言われればそうかもな、という感じであった。

 どうやら五人にとっても、久々の酒だったらしい。気の毒になるくらい、味わいながらチビチビと飲んでいる。そうこうしていると、ジョットがテーブル上に身を乗り出してきた。何やら、意味深な笑みを浮かべている。

「そーいえばさー。俺、この前、市場の揚げ菓子店に行ったんだけど。そこで、売り子のおばちゃんから聞いちゃった。アントニオが、新人の料理番の女の子と、手を握り合ってたわよって」

 ビシッと効果音がしそうな勢いで、チロ、ファビオ、マルチェロの三人が固まった。