「あああ、よかった。屋敷はご用意いただいたということで、では嫁入りの準備か。意外と早まったなあ。どうしよう、どうしよう……」

 パニックのあまり、父はパタッと倒れそうになった。すかさず、ジョットが支える。ビアンカは、母と顔を見合わせていた。

「ジョットさんが婿入りしてくれて助かったわ。ルチアも良いお相手が見つかって、安心ね」

 母が微笑む。

「ええ。ですがルチアが家を出るとなると、やはり侍女を雇う必要がありますね」
「今度こそ、本質を見抜かないといけないわね。……ま、私が自分でできるようにしてもいいのだけれど。娘たちが、こんなに自立したことですしね」

 母が、しみじみと頷く。一方、会場内は一気に盛り上がっていた。

「何と、もう一組カップルが成立しましたな!」
「実にめでたい!」

 ボネッリ伯爵とコリーニは、口々にアントニオを激励した。

「おめでとう。良き伴侶も得られたことですし、さらなるご活躍を期待していますよ」

「私はもう引退しますが、同じボネッリ領出身として、応援しています。ステファノ殿下もドナーティ様も、あなたをたいそう買っておいでですよ。いずれは、王立騎士団長になられるかもしれませんね」

「いえ、とてもそのような……」

 謙遜するアントニオの元へ、チロたち三人も駆け付けた。まだ父を介抱しているジョットを見ながら、嬉しげに笑う。

「やっぱり、お前ら仲良いよな! ついに、義兄弟かよ」
「全然タイプが違うのに、不思議だわ~」
「うるさい。お前らも、早く身を固めろよな」

 ビアンカも、アントニオとルチアの元へ歩み寄った。二人の目を見つめて、心から告げる。

「おめでとう。幸せになってくださいね。応援しているわ」

 ありがとう、と二人が口々に答える。ビアンカは、実感していた。

(人生をやり直せて、本当によかったわ……)

 自分だけでなく、ルチアとスザンナもまた、良き伴侶を得ることができた。ビアンカが騎士団寮の料理番になっていなかったら、二人とも今の相手とは巡り会えていなかっただろう。普通の貴族令嬢とは違う人生を歩んでいる妹たちだが、幸せならばそれでいいのではなかろうか。仮に彼女たちが社交界デビューしたところで、良い縁があったという保証はないのだから。

(それに、エルマさんも)

 コリーニと再会できたのは、彼がビアンカを逮捕しに、あの寮まで来たからだ。ビアンカが騎士団寮へ来ていなかったら、あんな機会はなかったことだろう……。

 ビアンカは、ルチア、スザンナ、エルマの顔を順繰りに見た。三人とも、愛しい男性のそばで、幸せそうにしている。そんな彼女らの姿を見ていると、ビアンカは無性にステファノが恋しくなった。

(早く、お会いしたいわ……)