アントニオは、静かに口を開いた。

「ビアンカの代わりだなどとは、思っていない」

 全員が、固唾を呑んで続きを見守った。

「確かに君らは姉妹だから、似ている部分もあるけれど。でも、君とビアンカは全く違う。君には、計り知れない行動力があるし……、それに二ヶ月近く文通して、君の人となりは十分わかっている」

 文通していたなんて、初耳だ。クラリッサと和解したという報告の手紙が来たとは、聞いていたけれど。それ以来、続いていたということか。

「それでも、プロポーズする勇気が出なかったのは、君をビアンカの代わりにするつもりだと、邪推されたくなかったからだ。どう伝えればいいか、ずっと悩んでいた」

 アントニオが、ルチアに一歩近付く。

「君の方から言わせてごめん。ルチア嬢、どうか、俺と結婚してほしい」

 わあっと、歓声が上がる。そこへ、恐る恐る口を挟んだのは父だった。

「パッソーニ様。あなたは、王立騎士団ご所属だとか。大変光栄なお話ですが、つまりルチアは王都に住むことになりますよね? 既婚者向け寮などはあるのでしょうか。そのう、資金面の心づもりが……」

「お止めなさい! この場でお金の話なんて、恥ずかしい」

 母は、父の頭をぶっ叩いた。コリーニが、口を挟む。

「差し出がましいようですが、王立騎士団には既婚者向けの寮はないですぞ?」

 アントニオは今、独身寮に入っているのである。確かに、そうなると王都に屋敷を構えなければいけないのではないか。するとアントニオは、意外なことを言い出した。

「それなら、ご心配なく。実はもう、新居は手配済みなのです」

 父母もルチアも、驚いたような顔をした。アントニオが、けろりと言う。

「俺の母親のことは、皆様ご存じですよね? 実は修道院入りする際、かつてコンスタンティーノ三世陛下からいただいた宝飾品を、こっそり隠して持ち込んだそうなのです。今回、今までの詫びと結婚祝いを兼ねて、それを売ってお金に換えてくれました。それを元手に、屋敷を用意できたのです」

 何と、とビアンカはあっけにとられた。

(クラリッサ様、意外とちゃっかりなさってる……)