ジェンマにもだが、ビアンカは改めてテオに腹が立ってきた。あの後ゴドフレードは、テオにむち打ちを科した上で、爵位、領地剥奪及び国外永久追放の刑を言い渡した。カルロッタ夫人が受けた処分に、さらにむち打ちがプラスされたのは、ステファノのごり押しによるものである。

『考えてみれば、極刑よりこの方がいいかもしれぬ。下手に死なれて、また逆行転生されたら困る』

 ステファノは、黒い笑いを浮かべていた。その時は、多少テオを気の毒に思ったビアンカだが、今やそれでも足りないくらいの気分だった。

(形だけの妻ですって? たとえジェンマを利用するための嘘にせよ、許せないわ。馬鹿にして!)

 やっぱり自ら噴水にぶち込むべきだった、とビアンカは歯がみした。それができるくらい、もっと筋力を付けねば。一方ジェンマは、愛想笑いを浮かべてすり寄って来た。

「でも、もう終わった話はいいじゃないですか。ビアンカ様はお妃に決まられましたし、水に流していただけません?」

 ビアンカは、それには答えずに背後を振り向いた。廊下へ向かって、呼びかける。

「どう思われます?」
「許せないわね」

 言いながら部屋に入って来たのは、母だった。ジェンマが、さあっと青ざめる。

「お、奥様……?」
「全て聞かせてもらいましたわ。お仕えする令嬢を裏切るような侍女は、うちには必要ありません。しかもよりによって、その夫の愛人になるですって?」

 母は、ジェンマを鋭い眼差しでにらみつけた。

「ジェンマ。あなたには、今日を限りに辞めてもらいます。パーティーが終わり次第、この家から出て行きなさい!」