「おー、主役二人、喧嘩かよ?」

 そこへ寄って来たのは、かつての騎士団寮の面々だった。王都から急遽駆け付けた、アントニオも一緒だ。

「チロさん、ファビオさん、マルチェロさん! 皆、お久しぶり!」

 ビアンカは、感激して叫んでいた。同じ王都にいるアントニオとは、顔を合わせる機会もあるが、この三人とは本当に久々の再会なのだ。スザンナが頑張って食べさせているのだろう、皆しっかりした体格を保っていて、喜ばしい。

「ビアンカちゃん、元気そうで……。あ、もうそんな呼び方はできないか」

 チロが苦笑する。

「別にいいですよ。皆さんは、お元気ですか?」
「うん! 最近は、薄めてない酒も飲めてるし」

 大声で答えた後、マルチェロが慌てて口を押さえる。ファビオは、ニコニコ笑った。

「こうして全員そろって、何だか感激だなあ。アントニオもビアンカちゃんも、王都へ行っちゃったからなあ」

「そういや、ジョットが騎士団を抜けるってことは、誰が次の団長になるんだろう?」

 アントニオが、首をひねる。彼が王立騎士団へ行った後は、ジョットが団長に昇格していたのだ。

「まだ二年も先だけど……。年齢的には、チロじゃねえ?」

 マルチェロが、チラとチロを見る。するとチロは、なぜかにやっと笑った。

「いや、それがさ! 俺も、騎士団を抜けるかもって話」
「何!?」
「まさかお前も、王立騎士団からスカウトとか?」

 一斉に、皆がどよめく。だがチロは、かぶりを振った。

「そっちじゃない。実は俺、ステファノ王弟殿下から、直々に打診を受けたんだよな。宮廷画家にならないかって」

 おおお、と皆が歓声を上げた。チロは、ビアンカの元へ歩み寄ると、ぎゅっと手を握った。

「ビアンカちゃんのおかげだよ! 晩餐会に、俺の描いた絵を持って行ってくれたから」
「いえ、私は何も。チロさんの実力ですから……」
「しかも!」

 チロは、興奮気味にビアンカの言葉をさえぎった。

「ステファノ殿下は、俺に絵を教えてほしいと仰ったんだぜ。俺、王弟殿下の、絵の教師になれるかも!」

(うわあ……)

 周囲は盛り上がっているが、ビアンカは冷や汗が流れるのを感じた。

(それ、この世で一番難しいお仕事かも……)