(エルマさんとコリーニ様も、順調そうで何よりだわ)

 ビアンカは、二人をチラと見やった。一念発起して王都へ出向いたエルマは、コリーニを訪ねて、かつて嘘をついたことを白状し、詫びたそうなのだ。その後、無事和解したとのことである。

「ビアンカ嬢、その節はどうも」

 目が合うとコリーニは、穏やかに微笑んだ。

「私はこの度、王立騎士団を引退することになりましてな。近く、故郷へ帰ろうと思います」
「まあ、そうだったのですか?」

 つまり、ボネッリ領へ戻るということか。ビアンカは思わず、彼とエルマを見比べていた。コリーニは結局、両親の勧めた女性とは再婚しなかったらしく、現在も独身だそうなのである。

(ということは……?)

 一瞬期待したのだが、エルマはそんなビアンカを軽くにらんだ。

「そういうんじゃないっての。お互い年だしさ。茶飲み友達ってところ」
「ええ、それはもったいないというか……」

 今日のエルマは、珍しくきちんとドレスアップしている。コリーニと並ぶと、初老の夫婦といってもおかしくないというのに。そこへ、スザンナが口を挟んだ。

「エルマさんは、照れてるだけですよ。今日のドレスも、コリーニ様のプレゼントだとか」
「まあっ」

 思わずエルマの方を見れば、彼女は赤くなった。

「あの真っ赤っかなドレスを着るわけにはいかないだろ! 困ってたところに、くれると仰ったからもらっただけさ」

 相変わらず素直ではないが、この調子なら期待が持てそうだ。ところで、とビアンカはジョットの方を見た。いつもエルマをからかう彼が、珍しく何も言わないなと思ったのだ。

(『老いらくの恋』とか言いそうなのに……)

「老いらくの恋?」

 エルマがにらむ。ビアンカは、ハッと口を押さえた。

(しまった。口に出てた……!)

「まあいいさ。本当のことだしね。……ところでジョット」

 案外あっさり受け流すと、エルマはジョットをじろりと見た。

「ずいぶん、おとなしいじゃないかね。何か言いたそうな顔だけど?」
「い、いや!? 別に。いくつになっても恋をするというのは、素晴らしいことじゃないかな」

 言いながらジョットは、スザンナの反応をチラチラうかがっている。ははあ、とビアンカは思った。よほどスザンナが怖いのだろう。

(何だか、お父様とお母様の関係を踏襲しそう……)

 それに感付いたのか、エルマもにやにや笑った。 

「へえ? 珍しいことを言うもんだね。いつもは、クソババアだの何だの言うくせに」

 途端にスザンナが、さあっと血相を変える。

「まあっ、何ですって?」
「違う!」

 ジョットは、慌てふためいた。

「クソなんか、付けてないだろうが。エルマ、話を盛るなー!」