約一ヶ月後、ビアンカは実家カブリーニ家にいた。今日は、ジョットとスザンナの、婚約披露パーティーなのだ。親戚や親しい友人を集めた小規模なものではあるが、カブリーニ邸は、かつてないほどの活気に満ちていた。

 ビアンカは、二人に祝いの言葉を述べに行った。両親とルチアも一緒で、久々の家族団らんの雰囲気を感じる。ジョットはいつもの騎士の制服ではなく、正装しており、スザンナは新品らしい可愛らしいピンクのドレスをまとっていた。

「ルチアお姉様に仕立てていただいたのです」

 スザンナは、嬉しそうに衣装を披露した。

「今日こそは、バッチリですわよ。糸がほつれるようなことはないはずです」

 ルチアは、自信満々に頷いた。

「可愛いわよ。スザンナに、よく似合っているわ」

 ビアンカがそう言うと、スザンナはすまなさそうな顔をした。

「私の方が先に婚約だなんて、何だか申し訳ないですわ。ビアンカお姉様は、あと一年も待たないといけませんのに」
「いいのよ。私は、ステファノ様と一緒にいられるだけで、幸せなんだから」

 本音である。初めて結ばれたあの夜以来、ステファノとビアンカは、蜜月という表現がぴったりな、甘い日々を過ごしているのだ。表向きは、イレーネの食事係として王宮に部屋を持っているビアンカだが、ステファノとの結婚が内定していることは、誰もが知っている。皆、それを温かく見守ってくれていた。それどころかイレーネ出産後は、喪明け前ではあるが早めにお妃教育を始めては、という意見も出ているくらいだ。

「殿下に、よろしくお伝え申し上げてね。いつも、過分なお気遣いをいただいてばかりだわ」

 嬉しそうに、母が言う。あの後ステファノはカブリーニ家に、正式に挨拶に訪れたのだ。……豪華な指輪と共に。そして今回は、スザンナへのお祝いとして、馬車一台分のプレゼントを贈って来たのである。

「本当は、このパーティーにも参加されたがっていたのですけれどね。気を遣わせるだろう、と遠慮なさったのです」

 『また父君が卒倒されてはまずい』と、ステファノは固辞した。温かい家庭に憧れている彼の気持ちを知るビアンカとしては、本当は出席してもらいたかったのだが……。