ビアンカは、硬直した。ステファノの言葉の意味が、理解できないからではない。理解したからこそ、どう反応していいかわからなくなったのだ。ステファノが、照れくさそうに笑う。

「婚約もまだだというのに、非常識なのはわかっている。だが、今夜のそなたは、魅力的すぎる。歯止めが利きそうにない」

 反射的に、薄手の寝間着の胸元を押さえかけたが、ステファノはその手を取った。ビアンカの両手をまとめて、彼の大きな手の中に、すっぽり包み込む。

「無理強いはしない。そなたがやはり結婚まではと言うのであれば、その意志を尊重する。……いかがであろう?」

 吸い込まれそうに美しい黒い瞳に見つめられ、ビアンカは決意した。長い間……やり直し前も含めれば、二年以上もの間、想い続けてきた男性なのだ。

(愛されたい)

 言葉にするのは、とても恥ずかしかった。こくんと頷けば、ステファノの顔に微笑が広がる。次の瞬間、彼はビアンカを膝の上に抱き上げた。そのまま立ち上がり、真っ直ぐにベッドへと運んで行く。ビアンカは、慌てて彼に話しかけていた。

「あ、あの!? 私、確かに以前の人生では人妻でしたが、この今の人生では、全く初めてでして……」
「わかっておる。……というより、嫌なことを思い出さなくてよい」

 ステファノはビアンカを、優しくベッドの上に下ろした。そっと覆いかぶさられ、髪にキスを落とされる。ビアンカは、思わず呟いていた。

「殿下……」
「今は、名前で呼んでくれ」
「はい……。ステファノ、様」

 どちらからともなく、唇が重なる。ビアンカの瞳には、知らず涙がにじんでいた。幸せだ、と心から思う。

(本当によかったわ、人生をやり直せて……)

 その夜、愛しい男性の腕の中で、ビアンカは何度もその思いを噛みしめたのだった。