(まあいいわ。この『個性的な』絵が添えられていれば、確実に殿下のお手紙だとわかりますし)

 そう自分に言い聞かせると、ビアンカは、気になっていたことを尋ねた。

「あの、チェーザリ伯爵は、どの程度の罪に問われるのでしょう? 先ほど、極刑と……」

「最終的には、兄上のご判断だが。だが、実行犯たるカルロッタ夫人が追放処分である以上、それ以上の罪には問えないであろうな。そなたを殺したといっても、以前の人生での話であるし。ああ、嘆かわしい。愛しいビアンカをこれほど苦しめたのだ、もっと重い罪に問いたいものだが……。だが、職権乱用はいかんな。父上のことを言えなくなってしまう」

 ステファノは、悩ましげにかぶりを振っている。ビアンカは、不安になった。

「殿下、お願いがございます。テオ様は、チェーザリ伯爵家の当主。彼が追放などされた場合、チェーザリ家の使用人たちについて、ご配慮いただけませんでしょうか? とても真面目な、いい人たちだったのです」

 熱心に仕えてくれていた彼らの顔が、思い浮かぶ。彼らが路頭に迷うことだけは避けたかった。ステファノが、深刻に頷く。

「わかった。その者たちの今後については、考えておく」
「是非、お願いいたします。特に、ニコラという料理番。彼には、本当に世話になったのです」

 そこでビアンカは、思い切って告げた。

「実は、私が作ってきた筋肉作りに有効な食事は、全てニコラから得た知識によるものなのです。殿下やドナーティ様は、私を高く評価してくださいましたが、これは私の手柄ではありません。本来、認められるべきはニコラなのです」

 ビアンカは、ステファノの顔をチラと見た。受け売りだったのかと、軽蔑されても仕方ない。だがステファノは、穏やかに笑った。

「さようか。だが、その知識を元に、実際に頑張ったのは、そなたであろう? 騎士団寮では実績を上げ、王立騎士団でも高い評価を得ておるではないか。それに、義姉上の食事作りにおいても、そなたは研究し努力しておる。卑下することはない」

「ですが……」

 自分一人の功績のようにされるのは、何だかいたたまれない。なおも浮かない顔つきでいると、ステファノは励ますように言った。

「安心せよ。そのニコラという料理番については、相応の待遇を考えておく」
「まあ、本当ですか?」

 ビアンカは、パッと顔を輝かせた。うむ、とステファノが頷く。

「そなたを殺したチェーザリ伯爵に仇討ちした、功労者でもあるしな。まあ、そのせいでチェーザリ伯爵まで、時が戻ってしまったわけだが……」

 ステファノは、しみじみと呟いた。

「それにしても。同じように人生をやり直したとはいえ、そなたが前向きに新しい道を進んだのに対し、夫君は前の人生にしつこく囚われていたのだな。人により、ずいぶん違うことよ……」

 ステファノは、そこでふとビアンカを見つめた。

「ところで。そなたは、チェーザリ伯爵のどこを好いたのだ? 夫に選ぶくらいだ、気に入っておったのだろう?」

 ふう、とビアンカはため息をついた。じろりとステファノをにらむ。

「元はと言えば、殿下のせいなのですわよ?」