「殿下……。本当に、ありがとうございます。そんな風に言っていただく資格はございませんのに。人生をやり直したことを、ずっと隠しておりましたのに……」

 言葉が震える。ビアンカは、さらに勇気を振り絞った。

「そして、恐れながら申し上げます。実は以前の人生では、コンスタンティーノ三世陛下は、この二年後もご存命でした。カルロッタ夫人と仲良くなさっておいでで……。私とチェーザリ伯爵の時間が巻き戻ったせいで、陛下の寿命は縮まったのです。何と、お詫びを申したらよいのか……」

「あれこれ策を弄したのは、チェーザリ伯爵であろう。そなたが気に病む必要はない」

 ステファノは、優しく告げた。

「それに。父上より兄上の治世の方がずっと良いことは、明白であろう。カルロッタ夫人だって、迷惑な存在であった。だから、今回夫人が追放され、兄上の即位が早まったことは、何ら問題ない」

 ステファノは、きっぱりと言い切った。ビアンカは、あっけにとられた。

(問題ない、のですか……?)

「とはいえ。情報流出を示唆したことは、見逃せぬ。チェーザリ伯爵には相応の処分を下すとして……」

 ステファノは、懐から何やら紙を取り出した。

「今後、同様に私の名を騙って、そなたを騙そうとする者が現れては困る。そこで、私は考えた。そなたに手紙を書く際は、秘密の印を添えることにしようと」

「まあ、印でございますか?」

 ビアンカは、パッと目を輝かせた。ロマンチックだ、と思ったのだ。だが、ステファノが広げた紙を見て、ビアンカは目が点になった。

「殿下、あの、こちらは……?」

 そこには、絵が描かれていたのだ。……いや、恐らく絵と思われる物体が。そして、何を表現したかったのか、さっぱりわからない。要するに、ド下手だったのである。