「――馬鹿な! 封筒には、王家の紋章が入っていたわ! それに、あの筆跡は確かに殿下のもの……」

「カルロッタ夫人経由で、あらかじめ封筒をくすねておいたんだよ。筆跡は、上手く真似られていただろう? 宮廷出禁になって、時間もたっぷりあったからな。ペンだこができるくらい練習した」

 なぜか得意そうに、テオが手を見せびらかす。自慢することじゃないだろう、とビアンカはため息をついた。

「僕が呼び出したのでは、君は応じてくれないだろうからな……。大成功だ」

 馴れ馴れしく手を握ろうとするテオを、ビアンカは振り払った。

「また口説かれるのですか? 無駄ですから、諦めてください。大体あなたは、カルロッタ夫人と愛人関係にあったのでしょう? 封筒も入手できるくらい、親密でいらっしゃったくせに。それでいて、彼女の企みから私を助けてやろうだなんて、白々しいことがよく言えましたわね!」

 するとテオは、なぜか小馬鹿にしたような笑みを浮かべた。

「君は、本当にお人好しだな……。カルロッタ夫人のあの企み、彼女が自力で考えついたと思ったのか?」
「――え……?」

 ビアンカは、きょとんとテオを見上げた。

「カルロッタ夫人が、コンスタンティーノ三世陛下亡き後も権力にしがみつこうとしていたのは、以前の人生で知っていた。だから僕は、彼女に近付いて、ステファノ王子の寵を得れば引き続き甘い汁を吸える、と吹き込んだんだ。ついでに、殿下は料理番の娘に関心があるらしい、ともね」

「あなたが、全て仕組んだのですか……」

 ビアンカは、愕然とした。その通り、とテオが頷く。

「予想通り、激高型の夫人は、君を逮捕した。それを僕が助けることで、君は元通り僕の妻、という筋書きだ」

 あの地下牢で、かつてのテオに対する態度を少しでも反省した自分が、悔やまれてならなかった。

「とはいえ夫人は、馬鹿な女だからな。いつ何時、余計なことを喋るかもしれない。だから、ロジニアへの情報流出も唆しておいた。優秀な王子たちのことだ、すぐに発見して彼女を処分してくれるだろうと踏んだんだ」

「あれも、あなたが仕組んだのですか!」

 ビアンカは、カッとなった。一歩間違ったら、国の危機だったというのに。口封じという利己的な目的だけで、そんな恐ろしいことを唆したというのか……。