手紙は、謝罪で始まっていた。

『勝手にアントニオさんのお母様に会ったりして、ごめんなさい。彼のお母様の過去については、侍女の方々が噂しているのを聞いて知りました(アントニオさんは、かなり注目の的ですよ。格好良いし、優れた剣士ですもの)。そして実は、お姉様とステファノ殿下がダンスのレッスンをなさっていた最終日、私は廊下で、お二人の会話を立ち聞きしてしまったのです』

 まあ、とビアンカは目を見張った。

『悪気はございませんでした! もう終わる頃かと思って、部屋の前まで行ったら、偶然聞こえてしまい……。それで、お母様が修道院から出ようとしないこと、お姉様がアントニオさんを心配なさっていることを知りました』

 そうだったのか、とビアンカは合点した。

『お姉様の気持ちには、大変共感できました。なので私は、その後ステファノ殿下から、修道院の場所をこっそり教えていただきました。差し出がましいかとは思いましたが、クラリッサ様に会いに行ったのです』

 ビアンカは、首をかしげた。

(殿下ったら、ルチアには修道院の場所を教えられたの……?)

 親子関係は他人が干渉する話ではない、と言っていたのに。よくわからないまま、ビアンカは手紙を読み進めた。

『先日、アントニオさんからお手紙をいただきました! クラリッサ様は、アントニオさんとお兄様、それぞれと面会されたそうです。修道院で過ごすという決意は変わらないけれど、無事和解されたとか』

 ビアンカは、ほっと胸を撫で下ろした。

(よかったわ……)

 自分だけでなく、ボネッリ伯爵やエルマ、スザンナにジョット、アントニオとクラリッサ、周囲の人間たちが着々と幸せに向けて歩んでいることが、本当に嬉しかった。

(あっ、あとはルチアの恋よね。一体、誰を好きなのかしら……?)

 手紙を畳みながら、ビアンカは時計に目をやった。そろそろ、イレーネの晩餐の支度をしなければ。エプロンを手に部屋を出ようとして、ビアンカはおやと思った。扉の下に、何やら封筒が差し込まれていたのだ。拾い上げてみると、王家の紋章が刻まれていた。

(もしかして……?)

 はやる思いを抑えて、開封する。便せんには、見覚えのあるステファノの筆跡が並んでいた。

『やっと時間を作れた。今宵、二人で過ごしたい。中庭のオークの木の下で、××時に待つ。ステファノ』