(テオ様は、カルロッタ夫人と関係が……!?)

 ビアンカは、呆然とした。前回も今回も出くわさないのは、出禁だからだと思っていた。まさか、投獄されていたとは。

(まあ、顔を見ないで済むのなら、どちらでもよいのですけど……)

 そこでビアンカは、ふと思い当たった。カルロッタが修道院行きを避けるため、ステファノに取り入ろうとしたのは、一部の関係者しか知らない話だった。それをなぜテオが知っていたのだろうと、不思議に思っていたものだが、これで納得だ。テオとカルロッタは、男女の仲だったのだ。

(相変わらずと言いますか……)

 テオの女癖の悪さは今に始まったことではないが、ビアンカは改めてため息をつきたくなった。カルロッタから助けてやる、と恩を売ろうとしながら、裏では彼女と関係を持っていたなんて。

(釈放されたら、顔を合わせることもあるでしょうけれど。徹底的に、無視してやるわ!)

 意気込むビアンカを、ゴドフレード夫妻は怪訝そうな顔で見た。

「ビアンカさん、どうしたの?」
「ずいぶん、鼻息が荒いが」

 ビアンカは、ハッと我に返った。

「い、いえ! では私は、そろそろ失礼いたします」

 丁重に挨拶して、イレーネの部屋を出る。後片付けと明日の仕込みを終えて、自室へ戻ろうとすると、廊下でステファノと出会った。

「こんなに遅くまで、働いておったのか?」

 ステファノは、案じるような眼差しをした。

「いえ、国王陛下ご夫妻とお話ししていたので、その分時間がずれこんだだけですわ」
「さようか」

 ステファノは、ほっとしたように微笑んだ。

「このところ、そなたとの時間がなかなか取れず、すまないな」

 父王崩御以降、多忙なゴドフレードの右腕として、ステファノもまた、政務に忙殺される毎日なのだ。同じ王宮内にいるというのに、彼とは話す機会さえ滅多にない。とはいえ、それは致し方ないことと、ビアンカは納得していた。それよりも、ステファノの体が心配だった。

「私のことはお気遣いなく、殿下はしっかり栄養を摂られて、休まれてくださいませ」

 そう言っても、ステファノはまだ申し訳なさそうにしていた。

「今は大きな案件を抱えているが、それが一段落したら、少しは余裕ができる。そうしたら、必ず時間を作るからな。二人きりで過ごそう?」

 お休みと告げて、ステファノは去って行った。