コンスタンティーノ三世崩御から、あっという間に一ヶ月が過ぎた。あの後、ゴドフレード二世が速やかに即位し、父の葬儀を粛々と執り行った。

 ゴドフレードが直ちに取り組んだのは、前王の尻拭いであった。コンスタンティーノ三世の施政は、その時の気分による、実にいい加減なものだったのだ。その場しのぎで重税を課す、気まぐれで他国と国交を断絶する、気に入らない家臣を、根拠なく投獄する……。ゴドフレードは、それらの撤回に奔走している様子だった。

 そしてビアンカは、これまで通り王宮内で過ごしている。あの後、実家とボネッリ伯爵、エルマに宛てて、今回のいきさつをしたためた手紙を送ったところ、全員が祝福し賛成してくれたのだ。騎士団寮の方は、エルマとスザンナとで回していけるので、心配はないとのことだった。こうしてビアンカは、今や王妃となったイレーネの食事を、黙々と作り続けているのである。

 その日、イレーネの部屋で、彼女の晩餐の給仕をしていると、ゴドフレードがやって来た。ビアンカが作った、干しぶどう入りパンケーキを手にしている。

「近頃忙しくて、王妃と語らう時間もなかったからな。デザートを、共にしようかと」
「では……」

 ビアンカは退室しようとしたが、ゴドフレードは留まるよう言った。

「気を遣わずともよい。実質、もう義妹であろう」

 イレーネも同意した。

「ゴドフレード様の仰る通りよ。婚約こそまだだけれど、そのペンダントを着けていれば、誰もがあなたをステファノの婚約者とみなすわ」

 先日、ビアンカはステファノから、ペンダントを贈られたのだ。高価そうなルビーがあしらわれたそれには、王家の紋章がはっきりと刻まれている。ビアンカは、その際の彼の台詞を思い出していた。

『肌身離さず、着けておくように』
 
 いつになく強い調子で、ステファノはそう命じたのだ。夫妻が、微笑ましげに顔を見合わせ合う。

「ステファノも、独占欲が強いわねえ」
「まったくだ。この紋章を見て、彼女にちょっかいを出そうなどという男が現れるものか」

 口々に言われて、ビアンカは赤くなるのを抑えられなかった。