翌朝、イレーネに朝食を提供した後、ビアンカは早速王立騎士団の建物へ向かった。玄関を入ったところで、出て来るドナーティとすれ違う。ビアンカは、丁重に挨拶した。

「ドナーティ様、お久しぶりです」
「おお、ビアンカ嬢。ジャンと、新しい献立作りに取り組むそうだな。期待しておるぞ」

 ドナーティは、にこやかに微笑んだ。

「そのうち時間ができたら、我が家にも来てくれたまえ。料理番は相変わらず、タマネギ臭を消すことができぬのだ。家族も、のたうち回る私を見て笑うのが、習慣になっておる」

「私でよろしければ、是非伺います。本日でも結構ですよ」

 即座に答えると、ドナーティは意外そうな顔をした。

「それはありがたいが……。ビアンカ嬢は、お忙しいのでは? 妃殿下のお食事作りだけでも大変であろうに、ジャンにも協力するのだから」

「いえ、構いませんよ」

 ビアンカは、きっぱり答えた。世話になったドナーティの役に立ちたいというのはもちろんだが、ステファノと過ごさずに済む言い訳が増えた、と思ったのだ。

「そうか……? では、後ほど」

 ドナーティが出て行く。ビアンカは、他に用事がなかったか、思い巡らせた。

(そうだ、アントニオさんのお母様)

 差し出がましいのかもしれないが、そちらもやはり気になる。だが、前回はステファノを怒らせてしまったので、修道院の場所はわからずじまいだ。イレーネに聞いてみようか、と思う。

(場所がわかったら、訪ねてお母様とお話ししてみたい……)

 そこまで考えて、ビアンカは自己嫌悪に陥った。わざわざ用事を増やしてまで、ステファノを避けるなんて。

(私は、何て卑怯なんだろう……)