「いえいえ! 買い出しは、私の仕事ですから」

 ビアンカは、ぶんぶんとかぶりを振った。せっかく任せてもらった仕事だ、一人で責任を持ってやり遂げたい。しかも、男性の助けなど借りたら、やはりそういう目的かとエルマに思われてしまうではないか。

「君の仕事には干渉しないよ。ただ、街を案内したくてね。君、お隣の領主のお嬢さんなんだろう? だったら、ここには不慣れだろう」

 アントニオが言う。それでも逡巡していると、彼はダメ押しするように言った。

「激安店も、教えるけどね」
「ご同行お願いいたします!」

 ビアンカは、ぺこりと頭を下げていたのだった。

 連れ立って、寮を出る。アントニオは道中、自分や他のメンバーたちについて、あれこれと説明してくれた。昨夜は、お互い名乗り合うだけで慌ただしく終わったからだ。アントニオは、パッソーニという伯爵家の次男で、二十歳だという。ジョットとチロは十八歳、ファビオとマルチェロは十七歳だそうだ。

「ビアンカ嬢は? どうしてまた、ここで料理番をやりたいんだい?」

 アメジスト色の瞳をしばたたかせて、アントニオが尋ねる。ビアンカで結構です、とビアンカは訂正した。

「ここでは、使用人ですから……。ここで働きたいと思ったのはですね、仕事に生きると決めたからです。料理は、好きで得意なので、それを活かそうと思って」
「変わってるねえ」

 アントニオは、クスクスと笑った。

「はあ……。でも、昨日はありがとうございました。アントニオさんが言ってくれたおかげで、無事任せてもらえることになって」

 そこでビアンカは、思い出した。

「そういえば、昨日仰っていた女性って、何者ですか? ほら、あの娘とは違う、とかエルマさんに言ってくださったじゃないですか」

「ああ、あれね。俺も、それほど詳しく知っているわけじゃないんだけど」

 アントニオは、軽く首をかしげた。

「昔、君みたいに寮母補佐として来た、若い娘がいたんだよ。で、当時入寮していた騎士の一人が、彼女に参っちまって。結局、二人して寮を飛び出したんだ。その後、彼は彼女に唆されて、何やらとんでもないことをやらかしたとか」

「とんでもないことって?」