「その格好は……、もしや、ボネッリ領へ帰られるのですか?」

 コリーニは、何やら蒼白な顔で詰め寄ってくる。ビアンカは、短くええと答えた。

「料理の食べ比べの際は、お世話になりましたわ。それでは」

 そそくさと立ち去ろうとしたのだが、コリーニは、行く手を阻むようにビアンカの前に立ち塞がった。

「お待ちください! あなたに、お願いしたいことがあるのです。あなたが釈放されたら、お目にかかろうと思いつつ、なかなか機会が得られず……。少しで結構ですので、聞いていただけませんか?」

 急ぐのはやまやまだが、コリーニには食べ比べの時の恩があるので、断りづらい。ビアンカは、仕方なく応じることにした。

「あなたは、ボネッリ伯爵領の騎士団寮で、エルマと一緒に働いているのですよね?」

 コリーニは、確認するように尋ねた。

「エルマがいつからあそこにいるか、ご存じありませんか?」
「私は最近入ったので、よく知らないのですが……」

 ビアンカは、首をひねった。そういえば、エルマの個人的な話は、聞いたことがない。何となく、昔から勤めているのだろうと想像はしていたが。

(あ、でも、あのドレス……)

 ビアンカは、思い出した。確か、二十年前に寮生たちからプレゼントされたと言っていなかったか。

「少なくとも、二十年は働かれているはずですが」
「二十年!?」

 その途端コリーニは、蒼白になった。ビアンカは、心配になった。

「コリーニ様、どうかされましたか?」
「ああ、いや……。では彼女の話は、嘘だったのか……」

 コリーニは、呆然とした様子で首を振った。

「ビアンカさん。私はかつて、エルマと恋仲だったのですよ」