エルマの部屋は、驚くほど多くの物であふれていた。裁縫道具に、種々の工具……。彼女の寮母たる歴史が、そこに刻まれているようだった。
「これ」
エルマはビアンカに、ぶ厚いノートを放ってよこした。
「何ですか?」
「家計簿だよ。食費は、この欄に付けている。ここの管理はあんたに任せたから、くれぐれも予算内に収めるんだよ?」
「あ……、ありがとうございます!」
認めてもらえたようで嬉しかったのだが、エルマはフンと鼻を鳴らした。
「オーバーしたら、承知しないからね。その場合は、あんたが責任を持って自腹を切るんだよ? そして、料理がひどかったり、予算管理ができていなかったりすれば、アントニオやボネッリ様が何と仰ろうが、あんたには出て行ってもらうからね!」
「わかりました! この帳簿、お借りしていいですか?」
目を輝かせて尋ねれば、エルマは不承不承ながらも頷いた。
「なくすんじゃないよ」
「はい!」
ビアンカは、ノートを持って自室に帰った。チェーザリ夫人だった頃、毎日帳簿と格闘していたから、読むのはお手の物だ。とはいえ、予想以上の予算の少なさに、ビアンカは頭を抱えたくなった。この中でやりくりするのは、チェーザリ邸時代とどっこいどっこいの苦労だろう。逆に言えば、腕が鳴る。
(皆様の体作りのためには、やっぱりお肉よね。チキンがいいと聞いたわ……)
チェーザリ邸の料理番・ニコラには兵役経験があったため、体を鍛えるのによいメニューを、色々教えてもらったのだ。やり直し前の記憶を頼りに、買い出しメモを作っていく。
(チキン、卵に豆類。それと、パンね)
果物やバターも摂って欲しいところだが、この予算ではとても無理だ。調味料も節約しなければいけないから、味付けは当面、塩一辺倒でいかねばならないだろう。
今日と翌朝の分の食材メモを作ると、ビアンカは支度をして部屋を出た。するとそこへ、アントニオが降りて来た。騎士の制服ではないが、外出の装いをしている。
「買い物か? 付き合う」
アントニオは、こともなげに告げた。
「これ」
エルマはビアンカに、ぶ厚いノートを放ってよこした。
「何ですか?」
「家計簿だよ。食費は、この欄に付けている。ここの管理はあんたに任せたから、くれぐれも予算内に収めるんだよ?」
「あ……、ありがとうございます!」
認めてもらえたようで嬉しかったのだが、エルマはフンと鼻を鳴らした。
「オーバーしたら、承知しないからね。その場合は、あんたが責任を持って自腹を切るんだよ? そして、料理がひどかったり、予算管理ができていなかったりすれば、アントニオやボネッリ様が何と仰ろうが、あんたには出て行ってもらうからね!」
「わかりました! この帳簿、お借りしていいですか?」
目を輝かせて尋ねれば、エルマは不承不承ながらも頷いた。
「なくすんじゃないよ」
「はい!」
ビアンカは、ノートを持って自室に帰った。チェーザリ夫人だった頃、毎日帳簿と格闘していたから、読むのはお手の物だ。とはいえ、予想以上の予算の少なさに、ビアンカは頭を抱えたくなった。この中でやりくりするのは、チェーザリ邸時代とどっこいどっこいの苦労だろう。逆に言えば、腕が鳴る。
(皆様の体作りのためには、やっぱりお肉よね。チキンがいいと聞いたわ……)
チェーザリ邸の料理番・ニコラには兵役経験があったため、体を鍛えるのによいメニューを、色々教えてもらったのだ。やり直し前の記憶を頼りに、買い出しメモを作っていく。
(チキン、卵に豆類。それと、パンね)
果物やバターも摂って欲しいところだが、この予算ではとても無理だ。調味料も節約しなければいけないから、味付けは当面、塩一辺倒でいかねばならないだろう。
今日と翌朝の分の食材メモを作ると、ビアンカは支度をして部屋を出た。するとそこへ、アントニオが降りて来た。騎士の制服ではないが、外出の装いをしている。
「買い物か? 付き合う」
アントニオは、こともなげに告げた。