「アクセサリーは、こちらでございます」

 これまたステファノのプレゼントだというイヤリングとネックレスを、侍女がうやうやしく見せてくれる。ドレスにあしらわれたのと同じ、ブラックダイヤだった。しばし見惚れた後、ビアンカははたと気付いた。

「あ! ルチアったら、ウィッグは持って来たけれど、ティアラは家へ置いて来たのかしら? あれも、殿下にいただいたものだというのに……」

 おっちょこちょいだわ、と呆れる。だが侍女たちは、笑顔でかぶりを振った。

「ご心配なく。殿下はあえて、持って来なくてよいと仰ったのです」
「なぜなら、本日はこちらを着けていただきたいからですわ」

 そう言って差し出された小箱を見て、ビアンカは感動のため息を漏らした。燦然と輝く、ルビーのティアラが収められていたのだ。ウィッグを装着した後、それを飾ると、侍女たちは感嘆の声を上げた。

「とてもよくお似合いですわ!」
「ビアンカ様の黒髪に、ぴったりです」
「え、ええ……、ありがとう」

 礼を述べながらも、ビアンカはだんだん緊張してきた。ルチアは、ドレスの生地もレースも高級品だと言っていた。このルビーは、聞くまでもない。こんな高価なものを身に着けるのは、生まれて初めてである。破いたり壊したりしないだろうか。今のビアンカの脳裏には、その不安しかなかった。

「ビアンカ様、そう緊張なさらずに」

 侍女たちが、明るく励ます。

「舞踏会は、スマイルですわよ」
「そうそう、万一粗相をなさったとしても、ステファノ殿下がきっと新しい物を買ってくださいますわ」

 彼女らは、ビアンカの不安をお見通しのようだった。確かに、せっかく招待されたのだ。楽しまないと、失礼というものだろう。

(でも、新しい物を買ってくださるとは、どういうこと……?)

 そこへ、ノックの音がした。父が到着したのだ。

「待たせたな、ビアンカ。王都など久々過ぎて、緊張したぞ」

 こちらはこちらで、脂汗をかいている。彼は娘を見て、目を見張った。侍女たちに、嬉しげに礼を述べる。

「おお、見違えたぞ。綺麗ではないか……。世話になりました」
「いえいえ、とんでもない。ビアンカ様は元々お可愛らしいので、磨き甲斐がありましたわ」

 そつなく挨拶して、侍女たちが下がる。いよいよ、舞踏会の会場入りであった。