ついに、宮廷舞踏会当日を迎えた。興奮気味のルチアは、参加するわけでもないのに、姉より早起きしてそわそわしていた。

「楽しみですわね! 今日の舞踏会は、盛り上がるだろうと予想されていますわ」
「そうなの?」

 ステファノが妃を選ぶからだろうかと思ったが、ルチアは意外なことを口にした。

「カルロッタ夫人は、国王陛下を裏切って愛人をお持ちだったでしょう? 何と、複数いたそうですの。彼らが一斉に処分されたせいで、男性の出席率が著しく低いのだとか。男性の争奪戦ですわね」

「まあ……」

 ビアンカは、呆れ返った。ルチアが、首をかしげる。

「国王陛下のお咎めを受ける危険を冒してまで、お付き合いするなんて、カルロッタ夫人てそんなに魅力がおありかしら? ただ豊かな金髪をお持ちで、色白で胸が大きいだけではありませんか」

 それは男性にとって大きな魅力でしょうよ、とビアンカは思った。

「でも、お姉様なら大丈夫ですわ! きっと、多くの男性から誘われましてよ」
「そうかしら……」

 壁の花だった以前の人生を思い出し、ビアンカは憂鬱になった。

(あれ? でもそれって、皆様、ステファノ殿下に遠慮されていたからだったわね。確か、テオ様がそう……)

 テオのことを思い出した途端、ビアンカはさらに気が滅入るのを感じた。彼の出禁処分は、いつまで続くのだろうか。今日参加していたら嫌だなあ、と密かに怯える。

「そうですわ! ああ、羨ましい。私も、早く社交界デビューしたいですわ……」
「しっかり、男性を見定めなさいね」

 ビアンカは、妹の肩に手を置いた。

「とにかく、踊ってみることよ。リードの下手な方は、まず候補からお外しなさい!」
「わ、わかりましたわ」

 姉の気迫に恐れをなしたのか、ルチアはこくこくと頷いた。