約束の時間にビアンカの部屋を訪れると、滞在している妹は、サッと部屋を出た。気を利かせたつもりだろうが、弱ったなと思う。二人きりで過ごすだけでなく、体を密着させるワルツを踊るのだ。自ら言い出したこととはいえ、果たして平静を保てるのか、ステファノは不安になった。かといって、戻って来いというのも不自然だ。

(ビアンカをリードすることに集中するか)

 余計なことは考えないようにしよう、とステファノは心に決めた。例えば、真剣な光をたたえた可愛らしいはしばみ色の瞳だとか、ステファノの掌にすっぽり包み込まれた小さな手だとか、ほっそりした華奢な肢体だとか。……特に、意外と大きな胸の感触だとか。

 ワルツの際に、こんな風に相手の女性を意識するのは初めてだった。ダンスよりは、剣を振ったり弓を引いたりする方が好きなステファノだが、それでもそれなりに舞踏会の経験はある。どんなに密着されたところで、妙な気を起こしたことはないのだが。かえって、あからさまに胸を押し付けられると、嫌悪感を抱いたくらいなのに。

(武芸試合の時を、思い出すな……)

 抱き上げたビアンカの、柔らかい感触が蘇る。彼女の熱を心配しつつも、本能的にその感触を楽しまずにはいられなかった。その経験あってこそ、ばっちり彼女のサイズを把握できたのだが……。

「そういえば殿下は、なぜ私のサイズをご存じだったのですか?」

 そんな折、絶妙のタイミングでビアンカが尋ねた。ドキリとしつつも、ここは潔く白状すべきかと、苦渋の決断をする。

「それは……、武芸試合の最後に……」

 だがその時、ビアンカは誤ってステファノの足を踏んだ。

「す、すみません……!」

 ビアンカはうろたえて平謝りしているが、ステファノにとっては実に好都合だった。それを口実に、ステファノはレッスンを終了させることにした。ダンスの最中に足を踏まれるのが嬉しいだなんて初めてだ、と思いつつ。