その後カルロッタは、無事断罪された。ロジニアとの同盟も、スムースに破棄できそうな流れだ。こちらは、兄ゴドフレードが尽力してくれている。父コンスタンティーノ三世はといえば、カルロッタと関係を持った男たちを捜しては処罰することで、頭がいっぱいのようだ。そのエネルギーを他に向けてほしいが、相手の男たちはいずれも素行のよろしくない連中なので、父の好きにさせることにした。

 その上でステファノは、カブリーニ家とボネッリ伯爵に宛てて、ビアンカの無事を知らせると共に、父とその愛人の振る舞いについて詫びる手紙を書いた。同時に騎士団寮へは、予定していた料理番を派遣する。タイミングよくドレスも仕上がり、あとは宮廷舞踏会を待つばかりとなった。

 ビアンカは心優しくも、王立騎士団の食事について気遣っていた。だがステファノは、止めさせた。狭量だとわかってはいたが、他の者にビアンカの作る料理を食べさせたくなかったのだ。ステファノのそんな考えを知らないゴドフレードは、不思議そうな顔をした。

「そなたも、食べたければ顔を出せばよいではないか」
「そういう問題ではありませんし、食べるつもりはございません」

 たかだかこの一週間、ビアンカの料理が食べられなかったところで、どうということはないとステファノは考えていた。なぜなら彼女を妃にした暁には、自分のために料理を作ってもらうつもりだからだ。王弟妃が厨房に立つなど前代未聞だが、自分が命じれば済む話である。

 ドレスを受け取り、舞踏会の件を知らされたビアンカは、最初は当惑した様子だった。説き伏せるうちに丸め込まれてくれたものの、彼女はしつこく不安の色を浮かべている。理由を問うと、何と踊れないと言い出した。

(母親は、ダンスを習わせていたと言っていたが……?)

 恐らくは、自信がないという意味だろう。確認すると、やはりそうだった。舞踏会では自分がリードしてやるので(もちろん他の男と踊らせるつもりはない)心配する必要はないのだが、不安は払拭してやりたかった。そこでステファノが思いついたのは、自らビアンカのコーチを買って出るということだった。