その後ステファノは、迅速に行動した。ドレスを注文し、カブリーニ家へ宮廷舞踏会の招待状を送る。ビアンカには、伏せておくよう頼んだ。彼女のことだ、仕事を放り出して行けない、などと言いそうだったからだ。その時期には、王宮の料理番の一人を派遣するよう、前もって手配する。そしてステファノ自ら、騎士団寮へ迎えに行くつもりだった。

 カブリーニ子爵からは、すぐに返事が来た。うろたえまくったらしく、文章は支離滅裂だった。困惑していたところ、夫人から追って補足の手紙が来た。喜んで出席させる、とのことである。社交界デビューを予定して、ダンスを習わせていたので、その点も問題ないとのことだった。やや心配していたので、安堵する。

(性急すぎるのは、わかっているのだが……)

 本当は、時間をかけてじっくり口説きたかった。強引に舞踏会へ連れ出せば、また駄々っ子呼ばわりされるかな、とも思う。だが、無性に急いだ方がよい気がしたのだ。言うなれば、第六感であった。

 ステファノの予感は見事に的中し、程なくしてロジニア行きが決まった。準備を終えられたことに安堵しつつ、急ぎ向かう。いつもは嫌々向かう土地だが、今回のステファノは意気込んでいた。何と、父王の寵姫カルロッタが、この国にパルテナンド王国の機密情報を漏らしているとの疑いが浮上したからだ。援軍派遣ついでに、徹底的に調査するつもりだった。わがまま放題だった彼女を追い払える、絶好のチャンスである。

(証拠が明らかになれば、さすがの父上も、彼女を処分なさるだろう。そしてそれに乗じて、煩わしい同盟も破棄できるやもしれぬ……)

 いつになく積極的にロジニアへ赴いたステファノだったが、そこへとんでもない知らせが飛びこんで来た。カルロッタが、言いかがりをつけてビアンカをしょっ引いたのだとか。彼女が、何かといえば自分に秋波を送ってくるのには気付いていたが、まさかそんな暴挙に出るとは思わなかった。しかも、父は彼女にビアンカの処分を一任したのだとか。もはや、カルロッタよりも父に腹が立って仕方なかった。

(絶対に、カルロッタを我が国から追放する……)

 そのためには、しっぽをつかまねばならない。ひとまずはドナーティとパッソーニを帰国させて、ステファノは証拠集めに奔走した。あの二人ならば、信頼できる。特にパッソーニは、ビアンカを愛しているのだから……。