思い切って尋ねると、ビアンカは自分のリボンだと答えた。

「寮生の方には、頑張っていただきたいですから。それに、私のメニューが採用されるか否かは、彼の結果にかかっています」

 いつも毅然としているビアンカだが、妙に早口で言い訳がましかった。騎士が、憧れの貴婦人の装飾品を身に着けるというのは、確かに伝統である。つまり、パッソーニが彼女を好いているのは、間違いないだろう。

(だが、この反応は……)

 ビアンカもまた、パッソーニを憎からず思っているのだろうか、とステファノは想像した。思わず、戦っているパッソーニをじっと見る。太刀筋を観察しなければいけないというのに、ステファノの視線は、つい彼の顔に集中していた。悪くない。むしろ、男前の方だ。

(同じ寮で生活していれば、親しくなるのは必然だろう)

 裸体画も所持していた、と思い出す。肌をさらすような仲なのだろうか。いやまさか、とステファノはかぶりを振った。煮梨を食べさせてやっただけで、ビアンカは真っ赤になっていたではないか。あんな純情な彼女が、すでに男を知っているとは思えない。

 その時、カキン、という大きな音がした。パッソーニの対戦相手だった騎士が、剣を落としたのだ。

(しまった……!)

 二人の仲について想像することで頭がいっぱいで、試合をまるで見ていなかった自分に気付く。家臣らには、注視しておれ、などと偉そうに命じておきながら。

(我が王立騎士団へスカウトすることは、ほぼ決定なのだが。今一度、強い相手と戦う様を見たいものだ)

 まさか、やり直せとは言えない。そこでステファノに、ひらめくものがあった。

「ボネッリ殿。少々待たれよ」

 優勝景品を準備しようとしているボネッリ伯爵に、声をかける。ステファノは、自ら試合会場内へ降りると、パッソーニを褒め称えた。そして王立騎士団へと誘ったが、案の定彼は辞退した。

(やはり、母親の恨みか)

 ステファノは、ふっと笑った。予定通りだ。

「己の能力が本物と、証明したいか? ……私の剣を持て」

 実に簡単な方法があったではないか。直接、戦えばいいのだ。