その日、王立騎士団の調練風景を眺めながら、パルテナンド王国第二王子・ステファノは顔をしかめていた。

「覇気が足りないな」
「申し訳ございません」

 王立騎士団長・ドナーティが、すまなさそうに答える。

「殿下の仰った訓練メニューは、全てこなさせているのですが……」
「ふむ」

 ステファノは、腕を組んで黙考した。ステファノは兄ゴドフレードから、王立騎士団の指揮監督を一任されているのだ。父王・コンスタンティーノ三世が頼りなさすぎるため、(まつりごと)はいつの間にか、王子二人で協力して取り組むようになっていた。物静かで冷静沈着な兄が内政を、行動的で武芸に秀でたステファノが軍事外交を担当する、というのも、自然に決まった分担である。

(取り入れられることは、全て取り入れたつもりだが)

 幼い頃から武芸一筋でやってきたステファノは、体を鍛えることにかけては、誰にも引けを取らない知識がある。ならば、別の視点が必要ということか。

「食生活を改善するのはいかがであろう? 量を減らせ」

 父・コンスタンティーノ三世は若い頃から美食に溺れ、今ではぶくぶくと肥え太っている。彼を反面教師として、ステファノは節制を心がけているのだ。だがドナーティは、やはり難色を示した。

「……ですが、若い者たちは、今でも足りないと申しておりますが」
「私は十分足りておるが、私は若くないと申すか」
「――し! 失礼を……」

 ドナーティが、ハッと口を押さえる。すると、別の騎士団員が、恐る恐る口を挟んだ。

「殿下。このような話を、耳にしましたが。とある地域の騎士たちが、短期間でめざましく筋肉量をアップさせたとか。何でも、新人の料理番の娘が、工夫をしたそうでございます」

「ほう、どこの騎士団だ?」

 ステファノは、目を輝かせた。聞けば、元々訪問を予定していた、ボネッリ伯爵領だという。ステファノは、即座に命じていた。

「その料理番の娘とやらを、晩餐に招待せよ。是非会ってみたい」