「心配するな。引き続き、頑張るよ」

 アントニオは、間髪入れずに答えた。

「確かに、君のことがきっかけになったのは、否定しない。でも今の俺は、心底ステファノ殿下を尊敬しているから。ゴドフレード殿下も、立派な方だと思う。彼らのためにも、王立騎士団員として尽力しようと考えているよ。責任は、感じなくていい」

「そうなのですね。応援しておりますわ」

 ビアンカは、ほっとして微笑んだ。アントニオの表情からは、確固たる決意がうかがえる。彼の変化が、ビアンカは純粋に嬉しかった。

「ありがとう……。それから」

 アントニオは、ふっと笑った。

「君のことは、もう諦めるよ」

 唐突な台詞に、ビアンカは一瞬言葉を失った。アントニオが、寂しげな眼差しをする。

「前にふられてるのにな。しつこくて、悪かったと思う。今回、いい加減わかった気がした。いくら待とうが、君の気持ちは変わらないだろうって」

「今回って……?」

「君には、好きな男性がいるんだろう。……ステファノ殿下だ」

 ビアンカは、絶句した。だがアントニオは、さらに衝撃的な台詞を放った。

「そして、殿下も君を好いておられる」
「まさか! それは無いわ……」

 確かにテオも、そう言っていたが。それは、以前の人生での経験があるからこそだ。なぜアントニオは、そんな確信めいたことを口にするのだろう、とビアンカは訝った。

「あの武芸試合で、君から贈られたリボンに言及したとたん、ステファノ殿下は一転本気になられた。それから、ロジニアでも。カルロッタ夫人が君を陥れようとしていると聞かれた時の、殿下の表情には鬼気迫るものがあった。その場にいた全員が、斬り殺されるのではないかと怯えたものだよ」

「そんな……」

 にわかには、信じがたかった。そして、とアントニオが続ける。

「確信したのは、あの料理比べの場に殿下が現れた時だ。君の髪に触れる殿下と、彼を見つめる君を見て、もう敵わないと悟った。二人が想い合っているのは、はっきりわかったよ」

(そんな風に、見えていたというの……?)

 混乱し過ぎて、プチパニック状態だ。アントニオは、そんなビアンカを見つめると、尋ねた。

「一つ、聞きたい。君は、結婚はしないと言い続けてきた。だが、もしステファノ殿下から求婚されても、断るのか?」