「ステファノ殿下は、パッソーニ家に十分な償いをしてくださったんだよ」

 アントニオは、静かに言った。

「無実だった父の名誉は回復してくださり、その詫びとして、領地をいただいた。……ああ、カルロッタ夫人から取り上げた一部だそうだが。そして、母も修道院から解放しようとなさったそうなのだが……」

 アントニオは、何ともいえない苦々しい表情になった。

「殿下は、非常に言いづらそうに仰っていた。母は、修道院に残りたいと言い張ったのだ、と。ステファノ殿下は、嘘を仰るような方ではない。母がそう言ったというのは、本当だろう」

「そんな……」

 ビアンカは、信じられなかった。アントニオが、顔をゆがめる。

「俺や兄という子供たちに、愛情などないのだろう。そもそも修道院へ入れられたと言ったって、監禁されているわけじゃない。この二十年近い年月の間に、会いに来ようと思えば来れたはずだ。だが母は、一度も俺たちの所へ来なかった」

「何か、事情があったのですわ。きっと……」

「さあね」

 アントニオは、フンと鼻を鳴らした。

「案外、カルロッタ夫人と同類だったのかも、と俺は思い始めている。愛人になったのも、自らの意志だったりしてな」

「そんな風に思ってはダメです」

 ビアンカはなだめようとしたが、アントニオの態度は変わらなかった。

「……まあ、俺の話はもういい。君は? 騎士団寮へ帰るのか?」
「ええ」

 アントニオは、これ以上母親の話を続けたくないといった雰囲気だ。ビアンカは、仕方なく頷いた。

「早く帰らないと、エルマさんが大変です。スザンナが助けになっていると、よいのだけれど……」
「ああ、妹さんの方ね。鶏と同じ名前だから、紛らわしいな」

 アントニオは、クスッと笑った。

「エルマやジョットたちに、よろしくな」
「はい、それはもちろん」

 頷いた後、ビアンカはためらいながら尋ねた。

「あの、アントニオさんは、引き続き王立騎士団でやっていかれるつもりですか? ……ほら、私が王都へ行くと誤解されたことが、そもそもの発端じゃないですか。何だか、責任を感じていて……」