苦労はしたものの、ビアンカはどうにか、小窓をくぐり抜けることができた。ただ、見下ろすと、地面は案外遠い。

(料理研究のためよ。ファイト!)

 勇気を振り絞り、飛び降りる。幸いにも、上手く着地することができた。

(さて、食堂は、と……)

 ろくに案内もしてもらえなかったが、チラッと垣間見たので、おおよその位置は把握している。ビアンカは、庭をぐるっと回ってみた。食堂と思われる部屋からは、灯りが漏れていた。騎士たちが話す声も聞こえる。

「そういえば、今日から新人が入るんじゃなかったか?」

 ちょうどそんな言葉が耳に飛び込み、ビアンカはドキリとした。すると、エルマが答える。

「来るだけで、くたびれてしまったようでねえ。今は部屋で寝てるさ。まったく、貴族のお嬢様ってのは根性がないねえ」

 どの口が言うか、とビアンカは歯ぎしりした。残念、という声が口々に聞こえる。

「どんな()? 可愛い?」
「ジョットの好みじゃあないだろうねえ。地味で、貧相な子さ」

 本人がいないのをいいことに、言いたい放題言ってくれる。だが、それはこの際どうでもよかった。ビアンカの使命は、彼らの食事を観察することである。

(どうせ、玄関から入っても、入れてもらえないだろうから……)

 再び、窓作戦である。食堂の窓は、残念ながら高い位置にある。だが付近には、手頃な木があった。枝もしっかりしているし、これなら大丈夫そうだ。ビアンカは、慎重にその木をよじ登った。どうにかこうにか、窓の所までたどり着く。窓枠をしっかり握ってのぞき込めば、中では、四人の若い男とエルマが食卓を囲んでいた。

(一人いない……? まあいいか)

 目を凝らして食卓上を見て、ビアンカは仰天した。そこには、ビアンカに与えられたものと全く同じ、パンとスープしか並んでいなかったのだ。

(あれだけで、足りるの!? 嘘でしょう……)

 あまりの衝撃に、ビアンカは思わず、窓枠を握っていた手を放してしまった。

「きゃあああっ」
「つかまれ!」

 地面に直撃……と思いきや、ビアンカは誰かの腕に抱きとめられた。男性のようだった。ダークブロンドの髪と、綺麗なアメジスト色の瞳が、一瞬目に飛び込む。ここに住む騎士だろうか。

(さすがだわ……って、え!?)

 男性がビアンカを受け止めたのは、束の間だった。彼は、無様にも転倒したのだ。自然とビアンカも、その上に倒れ込む形になる。

(いや、ここは華麗に女性をキャッチするところでしょー!)