「なぜだ、ステファノ」

 ゴドフレードは、不思議そうな顔をした。

「そなたも、食べたければ顔を出せばよいではないか」
「そういう問題ではありませんし、食べるつもりはございません」

 ステファノが、短く答える。ビアンカは、呆然とした。彼の表情は、驚くほど冷たかったのだ。

「被害者であるビアンカ嬢を、こき使うような真似はしたくないのです。他にも料理人はおりますから、今度こそ、彼女のレシピ通りに調理させればよいだけの話ではないですか」

 ステファノは、淡々と語っている。ゴドフレードは、彼とビアンカを見比べていたが、やがて仕方なさげに肩をすくめた。

「まあ確かに、他の料理人も、ビアンカ嬢のレシピに慣れさせないといかんからな。というわけでビアンカ嬢、せっかくのお気遣いだが、今回は遠慮する」

 そこで悲壮な顔になったのは、ドナーティだった。

「でも、そのお、ビアンカ嬢に来ていただかないことには、タマネギが臭うままではないかと……」
「そうならないよう、料理人たちを特訓するのではないか。そもそもそなたは、タマネギの克服をしろ!」

 ステファノが、ぴしりと叱りつける。ゴドフレードが下がれという合図をするので、ビアンカは従うことにした。

「ゴドフレード殿下、ステファノ殿下、ドナーティ様。この度は、本当にありがとうございました。引き続き、料理番として精進して参ります」

 そそくさと挨拶して、退室する。最後に聞こえてきたのは、ドナーティの、「我が家の料理番に、タマネギ臭を消すコツを教えてくれえ」という叫びだった。