「それにしても。そなたにも、責任の一端はあるぞ? ステファノ」

 ゴドフレードは、ステファノをじろりと見た。

「そなたが愚図愚図と妃を迎えないゆえ、このように付け入られるのだ」
「面目ありません」

 ステファノは、神妙に謝罪した。

「まったく……。ああ、ちょうどよい。一週間後に、宮廷舞踏会があるではないか。いつまでも逃げておらずに、そこで相手を決めよ」

 ゴドフレードは、珍しく強い語調だった。カルロッタの件で、うんざりしたからだろう。ビアンカは、ドキドキしながらステファノの方を見た。

(以前の人生では、二十一歳の時まで独身でいらしたけれど。今回は、どうなさるのかしら……?)

 ステファノは、あっさりと答えた。

「かしこまりました、兄上。一週間後の舞踏会にて、妃を決めるといたしましょう」

 即答であった。いくら状況が状況とはいえ、あまりにも決断が速すぎる。ビアンカは、何だか落ち込んでしまった。

(もしかして、もう心に決めたお相手でもいらっしゃるのかしら……?)

 いたとしても、不思議はないが。きっと想像もできないほど魅力的な女性だろう、とビアンカは思った。胸は痛むが、いつかはやって来ることだ。自分は一料理番として、これからも陰ながら応援しよう。そこでビアンカは、ふと気付いた。

「ゴドフレード殿下。ジャンさんの容態はいかがなのでしょう? もう復帰できそうなのでしょうか?」
「優しい娘だな。そなたを陥れる手先となったというに、彼を心配か?」

 ゴドフレードは、感心したようだった。

「復帰は、しばし先であろうな。何といっても、猛毒を盛られたゆえ」

 やはりか、とビアンカは思った。

「では、殿下。恐れながらその間、私を彼の代役として、王立騎士団の料理を作らせていただけませんか?」
「何!?」

 ゴドフレードは、目を剥いた。ステファノ、ドナーティも同様だ。

「気を遣ってくれるな。そなたには、詫びをすべきなくらいなのに……」
「とんでもないですわ」

 ビアンカは、きっぱりとかぶりを振った。

「ドナーティ様とアントニオさんが駆け付けて、料理比べをさせてくださったおかげで、私は助かりました。試食にご協力くださったお二人の団員にも、感謝しています。そのお礼ですわ」

 驚いた様子で、男三人が顔を見合わせる。露骨に相好を崩したのは、ドナーティだった。

「いや、私はありがたいですが。短期間でも、ビアンカ嬢の料理を食せるとは。それに、噂を聞いた他の団員らも、彼女の作る食事には興味を抱いております」

「うむ。では私も、食べに顔を出すとするか」

 ゴドフレードも、乗り気な様子だ。だがそこへ、ステファノの鋭い声が響いた。

「必要ない。ビアンカ嬢、そのような真似はしてくれるな」