その後ビアンカは、自分の部屋で、黙々と荷ほどきをして過ごした。二時間ほど経った頃、ノックの音がした。エルマだった。

「ほい、あんたの分の夕食」

 食事の載ったトレイを突きつけられて、ビアンカは目が点になった。そこには、ごく少量のパンと、えんどう豆のスープしか置かれていなかったのだ。

(まさか、これで全部なの……?)

 いやいや、とビアンカは思い直した。これは、使用人用の食事だろう。騎士たちの食事がこれだけ、というはずはない。

「ええと……、ここで食べるのですか? 食堂で、皆さんと一緒に食べるのではなく?」

 騎士たちの食事を観察したかったのだが、エルマは眉をひそめた。

「何だい。やっぱり、男目当てなんじゃないのかい」
「違いますよっ。私は、純粋に料理を学びたくてですね! というより、挨拶をしないといけないじゃないですか」

 ここで働く以上、入寮者にはちゃんと紹介して欲しい。だがエルマはかぶりを振った。

「どうせすぐ辞めるのに、挨拶する必要なんざないだろ」

 言い捨てて、エルマは部屋を早くも出て行く。

「ちょっと、待っ……」

 追いかけようとしたビアンカの鼻先で、ドアは閉まった。そして信じられないことに、ガチャリという音がするではないか。外から、かんぬきか何かをかけたらしい。

「やだ、何するんですか。開けてください!」

 ドアを押してみるが、びくともしない。ビアンカは、半泣きになった。

(鍵のかかる部屋とは聞いていたけど、外からかけられるなんて聞いてないわよ……!)

 玄関の方では、がやがやという話し声がする。どうやら、騎士たちが帰って来たらしい。

(ああ~、皆さんの食事を拝見したい!!)

 どうにか、食堂の様子を見れないものだろうか。室内をぐるりと見回して、ビアンカは名案を思いついた。部屋には、小さな窓があったのだ。普通なら人間が出入りできる大きさではないが、実家が貧乏だったせいで、ビアンカは年頃の娘にしては痩せ細っている。そして幸運なことに、ここは一階だ。

(意地悪おばばめ。これは、盲点でしょうよ……)

 ビアンカは、窓の下に台を置くと、よじ登った。窓を開け、頭からくぐり抜けていく。