「金で解決って……。そもそも、そんなことができるのですか?」

 ビアンカは、眉をひそめた。これは、国王陛下の命だ。王太子ゴドフレードでさえ、たじろいでいたというのに……。

「できるさ。そもそも今回の一件は、カルロッタ夫人がコンスタンティーノ三世陛下を言いくるめて、でっちあげたんだからな。カルロッタ夫人さえどうにか懐柔できれば、君は釈放される」

 テオは、事もなげに答える。ビアンカは、ますます不思議に思った。

「カルロッタ夫人は、なぜそんなことを企まれたのです?」
「ビアンカ。いいか、これは外へ漏らすなよ」

 テオは、声を落とした。

「ここだけの話、実はコンスタンティーノ三世陛下は、健康面に非常に不安がある。はっきり申し上げて、そう長くはないだろう。そうなられた場合、カルロッタ夫人がどうなるかは、知っているな?」

「修道院、でしたわね」

 ここパルテナンド王国では、国王が崩御した場合、その寵姫は修道院へ送られるのが決まりである。アントニオの母親のように、王に飽きられた愛人も同様だ。

「そう。カルロッタ夫人は、何とかそれを避けたいと考えておいでだ。そこで彼女が考えたのは……」

 テオは、いっそう声を潜めた。

「ステファノ殿下を籠絡することだ」
「――まさか!?」

 ビアンカは、目を剥いた。カルロッタは、ステファノより十歳も年上だ。それに何より、道義的問題が……。

「本当だ。実際過去に、国王の寵姫だった女性で、今度はその息子の寵を得たことで修道院行きを免れた者がいる。カルロッタ夫人は、何としても修道院へは入りたくないのだよ。とはいえ、ゴドフレード殿下にはもうお妃がおられるからな。だから狙うはステファノ殿下、と」

 信じられなかった。あれだけコンスタンティーノ三世の寵愛を得て、贅沢三昧だったというのに、まだ足りないというのか。それも、国の規則を破ってまで……。

「今回、ステファノ殿下が君に興味を抱いたことをいち早く察知した夫人は、危険分子を早めに排除しようと思ったんだよ。ちょうど、殿下はご不在だしね」

 カルロッタが自分に向けた憎悪はそれが原因だったのか、とビアンカは愕然とした。