(一体、どうしてこんなことになっちゃったのかしら……)

 地下牢で鎖に繋がれながら、ビアンカは呆然としていた。暗いし寒いし、石の床はぞっとするほど冷たい。

 あのジャンという料理長が嘘をついているのは、間違いなかった。ビアンカのレシピとは異なる物を、彼は作っているのだ。ビアンカの料理を知る者が、彼の料理を食べてくれれば、すぐに証明できるのだが。あいにく、ステファノもドナーティもアントニオも、今はロジニアだ。

(いえいえ、ダメよ。勝手な時ばかり、頼るなんて)

 彼らの顔を思い浮かべかけて、ビアンカはハッとした。専属料理番というステファノの誘いを断ったのは、他ならぬビアンカだ。それも、厳しい言葉まで投げつけて。アントニオにしたところで、ビアンカが誤解させなければ、王立騎士団へ入ることもなかっただろう。当てにするわけには、いかなかった。

(それよりも)

 皆はどうしているだろう、とビアンカは思いを馳せた。父母に妹たち、エルマ、四人の騎士たち。突然連行されたビアンカのことを、案じているに違いない……。

 あれこれ考えていたその時、靴音がした。ふと顔を上げて、ビアンカはぎょっとした。はしごを伝って、地下に人が降りて来る。それは何と、テオだったのだ。

「……なぜここに!?」
「看守に金をやった。君と話がしたくてね」

 テオは、静かに答えた。嘲りに来たのかと一瞬思ったが、どうやらそうではないようだ。テオのアイスブルーの瞳には、真摯な光が宿っていた。

「ビアンカ。もう一度尋ねるが、僕の妻になる気はないか」
「こんな時に、何を……」
「君の冤罪だが、金で解決することは可能だ。僕と結婚するなら、その金を出してやってもいい」