(ゴドフレード殿下、さすがですわ。ありがとうございます……)

 内心感激していたビアンカだったが、そこへ、ジャンと呼ばれた料理長がこう言い出した。遠慮がちに、ぼそぼそ喋り始める。

「王太子殿下に、恐れながら申し上げます。あのレシピには、体を動かす者にとって必要な栄養分が足りておりません。最も危険なのは、塩分が少な過ぎること。運動をすれば、汗と共に水分だけでなく、塩分も出て行ってしまいますのに……。あれでは、騎士たちの健康は損なわれてしまいます」

「そんなはずはないわ!」

 ビアンカは、叫んでいた。

「私は、きちんと計算して献立を作っております。現に、我が寮の騎士たちは、著しく筋力アップいたしました。あなたは、本当にレシピ通りに調理なさったのですか?」

「そ、それはもちろん……」

 ジャンは頷いたものの、目は泳いでいた。ビアンカは、ピンときた。彼は、レシピに従ってはいない。そしてそれは恐らく、誰かの指示によるものだろう。

「そもそもだな」

 ゴドフレードが、ため息をつく。

「この娘……カブリーニ子爵家の令嬢が、なぜ王立騎士団の弱体化など目論まねばならぬのだ? 動機がなかろう」

「あら、それは決まってますわ」

 なぜか、カルロッタが微笑む。ぞくりとするほど妖艶な笑いだった。

「この娘は、ステファノ殿下に想いを寄せていたのですわ。身の程知らずにも……。けれど叶わないことから、一転、報復を企んだのでしょう」