「そなたが、ボネッリ伯爵領で料理番をしておる娘か?」

 居丈高にそう尋ねたのは、ゴドフレードではなくカルロッタだった。いくら国王の寵姫とはいえ、王太子を差し置いて、この場を仕切る気だろうか。違和感は覚えたものの、ビアンカは丁重に返答した。

「さようでございます。ビアンカ・ディ・カブリーニと申します」
「ふむ」

 カルロッタは、蔑むような眼差しで、ビアンカをじろじろと見た。

「罪状は、もう聞いておろうな? 珍妙な料理を、王立騎士団のメニューとして採用させ、パルテナンド王国の弱体化を目論んだ。極刑も覚悟せよ」

「ちょっ、お待ちを……」

 めちゃくちゃな論理だ。抗議しようとした矢先、ゴドフレードが口を挟んだ。

「カルロッタ殿、それは事実と異なりますぞ? ステファノから聞いたところによると、この娘のメニューを採用させたのは、彼の強い希望によるもの。それに当たっては、ドナーティと賭けまでいたしたとか。決して、娘の方から言い出したことではない」

 ビアンカは、ほうっとため息をつきそうになった。

(さすが、ステファノ殿下のお兄様。まともな反論をしてくださったわ……)

 だがカルロッタは、それを聞いて目をつり上げた。

「ステファノ殿下もドナーティも不在の今、証拠はあるものですか。確かなのは、得体の知れない料理が、王立騎士団にて提供されたということ。……ジャン?」

 カルロッタは、背後を振り向いた。一人の中年男が、おどおどした様子で前に進み出る。

「確認だが、そなたは王立騎士団の専属料理長として、この娘のレシピ通りに食事を作ったのだな?」
「はい、さようでございます」

 男が頷く。ビアンカはカッとなった。

「嘘だわ。レシピ通りに作れば、薄味だのパサパサだの、なるはずはありません……」
「控えよ! 一料理番の分際で、王立騎士団の専属料理長に反論するなど、身の程を知るがよい!」

 カルロッタが、金切り声を上げる。ゴドフレードは、微かに眉をひそめた。

「カルロッタ殿。反論を許さないなど、尋問の機会を与えた意味がないではござらぬか。そもそも食の好みなど、人により千差万別。少なくとも、ステファノとドナーティはこの娘の料理を美味いと言っておった。そして、仮に王立騎士団員らが彼女の料理を気に入らなかったとして、それがなぜ反逆に繋がるのだ?」