寮へ帰ると、エルマは食材を一瞥して頷いた。

「よし。使い走りくらいは、できるようだね」
「あの……、これ全員分ですか?」

 ビアンカは、念のため尋ねた。

「ああ。じゃああんたは、部屋へ下がってな。皆が帰るまでに、荷物を片付けるんだよ。部屋はあっち」

 エルマが、顎をしゃくる。着いて早々、買い出しに行かされたせいで、ビアンカの荷物は玄関に放置されたままなのだ。

 エルマがさっさと厨房へこもってしまったので、ビアンカは、示された部屋へと向かった。隣は、エルマの部屋らしい。入ってみると、狭いが、特段汚くはなかった。ひとまず、安堵する。

 取りあえず荷物を置くと、ビアンカはエプロンを身に着けて、厨房へと走った。あの食材でエルマがどんな料理を作るのか、見せてもらうのだ。

(体が資本の方々のための料理だもの。きっと、栄養満点……よね?)

 その一方で、何だか嫌な予感もする。『へなちょこ軍団』という先ほどのフレーズ、『奴らにそんなエネルギーはありません』というボネッリ伯爵の言葉。期待と不安に駆られながら、厨房へ入ろうとして、ビアンカは唖然とした。中から、施錠されていたのだ。

「エルマさーん! 私です。開けてください!」

 中からは、無情な返事が返ってきた。

「首をつっこむなと言っただろう」
「お邪魔はしませんから! 見学して、勉強させていただきたいんです!」

 返ってきたのは、沈黙だけだった。ビアンカは、がっくりとその場にへたり込んだ。買い出ししかさせるつもりはない、というエルマの意志が固いことを、思い知らされた気分だ。

(仕方ない。初日だし、今日は諦めるか)

 ビアンカは、すごすごと自分の部屋へ戻った。こうなったら、実際の食事を見て、調理法を判断しよう。いくら何でも、夕食を食べさせてもらえない、ということはないだろうから。

(料理番としてのキャリア、絶対諦めるもんか……!)