とたんに娘は、パッと赤くなった。他の娘たちのように、技巧的なそれではない。爆食している様を見られたのが純粋に恥ずかしい、そんな雰囲気だった。

「あの娘は、どこの家の者だ?」

 ステファノは、家臣たちに尋ねた。周囲が、息を呑むのがわかる。これまで全くといっていいほど、女性に関心を示さなかったステファノだ。当然だろう。

「ええと……、カブリーニ子爵のご長女でいらっしゃいます」
「カブリーニ子爵?」

 一拍置いて、ステファノは思い出した。猫の額ほどの規模の領地を持つ、弱小貴族だ。うっすらとした記憶では、常に挙動不審で、何かにつけ卒倒寸前に緊張していた。

(貧しいゆえ、ここで腹を満たそうとしているのだろうか)

 さりげなく失礼なことを考えつつも、ステファノは彼女から目を離せずにいた。取り立てて美しいわけではなく、平凡な顔立ちだ。だがそこには、健康的な明るさがあった。料理の美味しさに感動しているらしく、素直に目を輝かせているのが可愛らしい。

「……殿下、あの娘がお気に召しましたでしょうか?」

 あまりにも、彼女を凝視していたからだろう。側近の一人が、恐る恐る声をかけた。ああと、ステファノは短く答えた。彼女は、他の令嬢たちとは違う気がしたのだ……。

 ステファノとしては、さして深い意図のない発言だったが、この一件は彼本人が知らぬ間に、広まっていった。曰く、これまでどんな美しい令嬢にも見向きもしなかった第二王子殿下が、カブリーニ子爵令嬢を見初めたそうだ、と……。

 こうして、出世欲でギラギラした男性陣は、カブリーニ子爵令嬢には手を出すまいと決意した。王子の不興を買っては大変だからだ。その中には彼女に好意を寄せた者も、少なからずいたのだが……。