ボネッリ伯爵領の市場は、父カブリーニ子爵領のそれと同じくらい、こぢんまりしていた。唯一の違いは、魚が売られていることか。この地域は、海に面しているのである。

(パンに、えんどう豆、と……)

 言われた食材を買い求めながらも、ビアンカは首をひねった。指定された分量が、えらく少量だったのだ。ここに住む騎士は、計五人と聞いている。しかも若くて、日々体を鍛えている男性ばかり。これだけで、腹が満たされるものだろうか。

(でもエルマさんのことだから、少ない食材でも素晴らしい料理を作れるのかも)

 料理には首をつっこむな、と言っていたエルマだ。きっと、自信があるのだろう。ならば是非見学させてもらおう、とビアンカは意気込んだ。最初は見ているだけでも、そのうち下ごしらえくらい手伝わせてくれるかもしれない。そうやって、次第に料理番としてのキャリアを積んでいくのだ。

 買い物を終えて、市場を後にしようとしたビアンカだったが、通りすがりの買い物客らが、こんな会話を交わしているのが聞こえてきた。

「ステファノ殿下が、いらっしゃると?」

 憧れの男性の名前に、ビアンカは思わず足を止めていた。

「武芸大好きなお方だからなあ。うちの騎士団の練習風景も、視察なさりたいんだと」

(何ですって!?)

 ビアンカは、胸が高鳴るのを抑えられなかった。あのステファノ王子が、ボネッリ伯爵領へ来られるだけでなく、騎士団を見に来られるだなんて。

(こうなったら、騎士の皆様には頑張ってもらわねば!)

 まだ会ってもいない彼らだが、ビアンカはぐっと拳を握りしめた。彼らが素晴らしいパフォーマンスを見せれば、きっとステファノも喜ぶことだろう。そのためにも、自分は裏方として、サポートに努めねば。

 だが、決意を新たにするビアンカの耳に、こんな台詞が飛びこんで来た。

「殿下も、さぞがっかりされるだろうなあ」
「あのへなちょこ軍団だぜ? 武芸じゃなくて、余興だろ」

 げらげらという笑い声が、耳にこだまする。ビアンカは、呆然とした。

(はぁ~っ!?)