やがて、デザートに移った。ドナーティは、煮梨をぺろりと食べ終えた。

「ふむ。まあ、味は悪くはありませんな」

 彼は、口を拭いながら頷いている。

「これなら、我が王立騎士団のメニューに取り入れても、よいでしょう。野菜問題はともかく……」

 すると、アントニオが怪訝そうな顔をした。

「王立騎士団のメニューに取り入れる?」
「おや、知らなかったのか」

 今度はドナーティが、きょとんとした。

「殿下は私と、賭けをなさったのだ。パッソーニ殿が武芸試合で優勝すれば、ビアンカ嬢のメニューを、王立騎士団で採用すると。殿下は、賭けに勝たれたというわけだ」

 アントニオは、眉をひそめてビアンカを見た。

「初耳だぞ。なぜ言わなかった?」
「ええと、それは……」
「言えば、俺が緊張すると思ったか? 俺は、そんなにプレッシャーに弱そうに見えるかな」

 アントニオは、軽く口を尖らせた。

「…………そんなことはないわ」
「今、ものすごく間があったぞ」

 やり取りを聞いていたステファノとドナーティは、クスクス笑った。とりなすように、ステファノが言う。

「まあまあ。パッソーニ殿には、剣術の能力だけでなく、精神力も備わっておるぞ? でなければ、あのような公衆の面前で、決勝まで勝ち残れはしない。加えて、その後の私との勝負でも、立派に戦った。何試合もこなして疲労した後で、あの戦いぶりは素晴らしい。並の者にはできんだろう」

 アントニオはそれを聞いて、おやという顔をした。

「殿下。途中まで本気を出されなかったのは、もしや私の体力を気遣われたのですか」
「さよう」

 ステファノは、あっさり答えた。

「ずっと観戦していただけの私が、すでに何人もと戦った後のそなたを相手にするのは、フェアではないだろう。だから、そなたにはハンデをやったのだ」

(そういうことだったんだ……)

 ビアンカは、納得した。同時に、アントニオは試合中ステファノに何を囁いたのだろう、と疑問を覚える。だが、さすがに聞きづらかった。

「気になさるなら、日を改めればよろしかったのでは?」

 ドナーティが、苦笑交じりに口を挟む。ステファノは、けろっと答えた。

「途中で気付いたのだ。あの時は、この男と戦ってみたくてたまらなかったからな」

 やれやれといった様子で、ドナーティが肩をすくめる。アントニオも、何やら拍子抜けしたようだった。ビアンカも同様だ。引き抜き目的で、あえて力を抑えているのかと思っていたが、深読みだったか。

(殿下って、何だか可愛い方かも……)