ビアンカは、厨房内を見回した。もう夜なので、獲れたて卵はないが、野菜や果物の類はそろっている。焼きたてではないが、パンも残っている。夕食にする予定だったらしい、焼きサーモンもあった。

(ふむ、これだけあればOK)

 ビアンカは、まだ不安そうに見守っているエルマに声をかけた。

「エルマさん。申し訳ないですけど、今日は胡椒を使わせてもらいますよ? 王子殿下に振る舞うものですからね。あと、燻製にしてあるチキンもお出ししていいですか」

「ああ、そりゃ構わないけれど……」

 貴重品たる胡椒使用の了承を得て、ビアンカは早速調理に取りかかった。燻製チキンは、スープにする。タマネギを多めに加えることで、栄養満点だ。焼いてから時間が経ったパンは固くなりつつあるので、このスープに浸してもらおう。

 焼きサーモンは、皮と骨を取り除いて、すり潰した。これは、パテにするつもりだ。ボネッリ邸の晩餐会で、ステファノがサーモンのパテを気に入っていたからである。あの後料理長からコツを聞いたところによると、塩よりも胡椒を多めに用いるとのことだった。教わった分量で、慎重に味付けていく。そしてここにも、みじん切りにしたタマネギを加えた。

 あとは、デザートだ。梨があったのは幸運だった。皮を剥いて切り、砂糖を加えて煮込んでいく。レモンもあったので、絞って入れた。煮梨をチョイスしたのは、疲労回復に良い……ということもあるが、ステファノが食べさせてくれた、思い出の一品だからである。

 食事を作り終えると、ビアンカは勢い良く食堂の扉をノックした。

「失礼します! 休憩して、お食事はいかがですか?」