昼休み。
社員食堂の窓際で紗良と依美は横並びでうどんを啜る。
たいていこの場所が定位置で、おしゃべりをしながら時間いっぱいまで居座るのがいつものパターンだ。

「週末どこか行った?」

「うん、水族館に行ったよ」

「へぇー。海ちゃん喜んだんじゃない?」

「そうなの。だけどイルカショーで海斗がびしょ濡れになって大変だったんだよ」

紗良は思い出して苦笑いをし、依美はその光景を想像して「ウケる~」と笑い転げた。

「……あのさ、水族館、……杏介さんも一緒に行ったんだけど……」

「杏介さんって、前言ってたプール教室の先生のこと?」

「うん」

ただ事実を述べるだけなのに、紗良は顔に熱が集まるようだ。
依美に聞いて欲しくて自分からその話をしたのに、ドキンドキンと落ち着かなくなる。
依美はニヤニヤとしながら箸を止めた。

「なんだかんだ上手くやってるじゃん」

「うちの事情を知ってるからいつも気に掛けてくれて……。なんていうか、ありがたい存在なんだ」

「うん、でも、それだけじゃないんでしょ?」

依美に指摘されてなおさら心臓がドクンと鳴った。

自分の中で整理しきれずにいる気持ち。
日増しに大きくなっていく杏介に対する想い。
本当は答えが出ている。
けれどそれでいいのか、自信がない。

だからこうして依美に話しているのだ。
紗良は水を一口ゴクンと飲んでから依美に向き合った。

「うーん、……いつも海斗が一緒なんだけど、もし、……もしもなんだけど、二人で出掛けたらどんな感じだろうって、気になってる」

「二人で出掛けたことないんだ?」

「うん、ないの」

「紗良ちゃん、杏介さんのこと好きなんだ?」

ぞわっと体が震えた。
依美に言われて、自分が薄々気づいていたこの気持ちはやっぱりそうなのかと自覚する。