『天災は忘れたころにやってくる』

 先人の残した言葉は偉大です。今日の私は、この言葉を噛みしめています。まさに、天災は忘れたころにやってくるのです。

 ……呪いのドレスが届きました。

 覚えている方いらっしゃいますか? そろそろ皆様忘れていた頃ですか?

 入学前に殿下に連れられて採寸に行った、夜会用のドレスです。金色の刺繍を施し、合わせるアクセサリーはエメラルドグリーン。そう、まさに、レオナルド殿下の髪と瞳の色。これを着ることで、悪魔に……いえ、殿下に一生忠誠を誓う羽目になりませんでしょうか。とても不安です。

 今年で十六歳、学園入学の記念すべき年の夜会に。
 私コレット・リード、殿下の色に染まった呪いのドレスをまとって参加いたします!

 先日エリオット様にフラれ、婚約者であるレオナルド殿下と言い合いをし、私はふと思ったのです。一体私がやりたいことってなんだっけ、と。
 一度原点に戻ってみようと思って頭を整理したのです。


 ヒロインに、王太子ルートを選択して欲しかったんじゃなかったっけ?


 ところがどうでしょう。ここ最近のヒロインの横暴な振る舞いに嫌気がさし、これ見よがしに殿下に近づく彼女の姿に怒りすら覚えていました。これでは本末転倒です。

 もう一度確認しましょう。
 メイ様には王太子ルートを選んでもらいたい! それが私の望みだったはず! だから、ヒロインと殿下が腕を組んで歩いていようが、レオ様がヒロインと一緒にムーンライトフラワーを見ようが、私には全く関係ないの。だって、二人が結ばれたら万々歳なんですもの。
 いくらエリオット様にフラれたからと言って、私の気持ちは変わらないわ。

 ドレスの試着を終えて一息ついていると、侍女が入って来て言いました。


「コレットお嬢様、なんと王太子殿下がお見えです」


 は……? 王太子殿下が、お見え(・・・)ですって?