春暖の候 グランジュール王国の皆様におかれましては ますますご清祥のこととお喜び申し上げます。

 春は暖かい。これ当然。

 つまり、絶好の水浴び日和ですね! しかし、自分で立てた計画ながら、やはり他人に水をかけると言うのは良心が痛みます。子供の頃に湖に落ちた時のことを思い出しますから。そういえばあの時に、自分が乙女ゲームの世界に転生したのだと気付いたのでしたね。懐かしいです。

 エリオット様が湖から私を助けてくれたことも、今となっては良い想い出です。

 あの時は、私が湖に落ちた事にすぐに気付いてくれたのに。私の恋心には気付いてくれなかったのですね。

 いや、気付いていてごまかしたのか。

 それはさておき、ジョージとの出会いイベントは放課後です。暖かくてよく晴れた日である事が救いです。まずは今日一日、授業に集中致しましょう。


「ねえ、コレット! 滝行(たきぎょう)って知ってる?」


 リンゼイに話しかけられ、思わず教科書を全部床に落としてしまいました。滝? 滝の話なの? 今ちょっと水関係の話は避けたいところなのですが。


「もう、コレット……しっかりしてよ! あのね、滝行って言うのはね、わざと滝の中に入って、水に当たりながらおまじないを唱えるんですって!」
「へえ……水にわざと、ね」
「そうなの! そうやって精神統一する事によって、病気まで治ることがあるらしいわ!」


 この前の動物セラピーの話の時も思いましたが、やはりこの世界では医学はあまり発展していないようです。民間療法に頼りすぎですよ、リンゼイ。
 滝行をやってみたいと騒ぐリンゼイと共に、移動教室です。空いた席に座ると、すぐに隣に座って来たのは、あのメイ様でした。