「アラン!」


 それは、久しぶりに見る騎士アランでした。レオ様の同級生で、今は王太子付き騎士団のホープ。国王陛下の信頼も厚く、王族の護衛などの重要なポストを任されています。


「……コレット! ひ、ひさしぶり……素敵な前髪……ダネ」


 明らかにあやしい素振りのアラン。目は宙を泳ぎ、発する言葉もたどたどしい。私も大概だけれど、アランも演技が下手過ぎるわ。


「アラン、こんな所でどうしたの? こちらのお店にご用事?」


 私たちが毛糸店の入口近くで話していると、話し声が聞こえたからなのか、中から店主が出てきました。


「おや、コレット様。まだいらっしゃったのですね。アラン様! ご注文の品はできておりますよ。馬車にお運びしますか?」
「……いや、ちょっとまた後で取りに来るよ。コレット、とりあえず出よう。入口に立っているのは邪魔だから」


 アランがこの毛糸店で何か注文したようね。奇遇だわ。ベビー用品を取り扱うお店で、レオ様の側近のアランが……何を注文するの?

 夕食は外で取るからと御者に伝言して、メイが私とアランを近くの店に引っ張っていきます。メイ、もしかしてこの機会にアランに色々と聞こうとしている? 私は、ちょっとまだ心の準備ができていないわ。


「アラン、教えてほしい事があるのよ」
「メイ……俺は特に何もシリマセン……」
「しらばっくれないで! こっちだって、色々な噂に振り回されて迷惑してるの。洗いざらい吐いてもらうわよ」


 メイ、そんなに強く出ないでちょうだい。本当に私、心の準備ができていないの。


「まず、最近毎週のように若いご令嬢が王宮を訪ねているって聞いたんだけど、本当なの?」
「……」


 アラン、答えないのね。違うなら違うとハッキリ言って欲しかった。何も言わないということは、本当のことなの?