森と山に囲まれた自然豊かな小国、グランジュール王国。

 グランジュール王国にはちょっと強面の国王と穏やかな王妃、そしてその間に一人の王子がいました。

 王子の名前はレオナルド・ブランデール。今年で二十二歳になるレオナルド王子は、美しい金髪に翠色の瞳。品のある所作に優しい笑顔。グランジュールの民は皆レオナルド王子を敬愛していました。

 ……彼の本当の姿が、まるで悪魔のようなガラの悪い凶悪王子だとも知らずに。


「……コレット。ルイーズに変な絵本を読み聞かせするのはやめてくれない?」
「ごめん。自作の絵本なんだけど、気に入らなかったかしら」


 私、コレット・リード。リード公爵の一人娘です。現在二十歳。
 七歳の頃に湖に落ちたのをきっかけに、乙女ゲーム『ムーンライト・プリンセス』の世界に転生したことを思い出したの!

 前世で推しに推していた攻略対象のエリオット・スペンサー様にフラれたのが数年前。その後は、子どもの頃からの婚約者だった王太子レオナルド様と、それなりに仲良くやっています。
 長年の片思い相手だったエリオット様は、今や私の大親友のリンゼイとめでたく結婚。そして先日、お二人に初めての赤ちゃんが生まれたのです!


「ルイーズちゃん、可愛いね。お姉さんのお顔が分かりまちゅか?」
「そんなに毎日会いに来ていたら、生後三カ月の赤ちゃんだって顔を覚えるわよ」
「……だって私、毎日暇なんだもの」


 そうなのです。リンゼイは学園を卒業してすぐ、十九歳になる少し前に結婚。こうして既に子供まで誕生しています。一方で私の方はと言うと、一年間祖父の喪に服していたとは言え、もうとっくに喪は明けて結婚してもよい時期。それなのに……


「コレットたちはなんで結婚しないの?」
「私が聞きたいわよ!」


 思い返せばここ数年。私の周りでは色々とありました。

 お祖父様が天国へ旅立たったり、王妃様が体調を崩されたり。

 そうそう、体調を崩した王妃様に付き添っていらっしゃる国王陛下のお仕事を、レオ様が補佐しているそうです。王妃様は回復傾向のようですが、まだまだレオ様は多忙な毎日を過ごしているようです。

 私たちの結婚は一体いつになるのか、私の方からレオ様に確認すればよい話なのですが、そこは乙女心。やっぱりプロポーズは、男性の方からロマンチックにして欲しくないですか? 乙女の夢ですよね!


「……ぅふぎゃああぁぁっ」
「あら! ルイーズ、どうしたの? オムツかしら? それともお腹がすいたの? あ、もしかして抱っこ?」
「コレット、あなたルイーズのお母さんみたいになってるわよ」
「ごめんなさいね、ついつい母性本能があふれ出ちゃって」


 まるいお顔をクシャっとしてか細い声で泣くルイーズが可愛くて可愛くて。

 実はこっそり自邸の厨房で、離乳食の作り方を教えてもらったりしています。親友にドン引かれてはいけないので、秘密にしていますけどね。