季節は変わり、再び春がやって来ました。

 いよいよ今日、レオ様は学園を卒業です。『ムーンライトプリンセス』のヒロインであるメイ様が登場したのがちょうど一年前。

 ヒロインが現れて、攻略対象全員との出会いイベントを発生させるべく奔走し、王太子ルートを選べ! なんて祈った日もありました。

 そこからレオ様の事を好きになって、約半年。

 レオ様に会える日は矢のように時間が過ぎ、会えない日々はたった一日ですら永遠のように長く感じる。

 私も一人前に、恋をしたっていうことかしら。


「……けっ」


 あら、私の独り言、また声に出ていた? 私のコルセットをぎゅうぎゅうと締めながら、侍女のメイが言います。


「アンタさ、最近ちょっとのろけ過ぎじゃないの? これからレオは本格的に政務に参加するんだから、アンタと会える時間はもっと減るのよ? もしかしたら他の女が現れて、アンタとは婚約破棄の上国外追放……なんて未来もあるわよ」
「ちょっとメイ。ゲームみたいな話をしないでちょうだい!」


 そうそう、最近私たちはお互いに、この世界への転生者であることをカミングアウトしてしまったんです。
 メイは前世では女優の卵。小劇場で舞台に立ちながら、昼間は会社員として事務の仕事をしていたらしいのですが……寸劇が上手なワケですね。納得です。


「何よ、あり得る話よ。アンタ悪役令嬢でしょ。まあ、悪役にしてはぼんやりしすぎてるけどね!」
「メイこそ、ヒロインのくせに誰も攻略できていないじゃないの。これからどうするの? お兄様も貴女のことは見向きもしていないし」


 メイは私のコルセットをこれでもかという程の力を入れて締め上げ、思わず私はうめき声を上げました。これは、レオ様の卒業パーティーでは何も食べられそうにないわね。


「アンタに任せてたら、いつまで経ってもジェレミー様との仲を上手く取り持ってくれる気がしないわね。さあ、そろそろ出発よ。レオとの時間を楽しんでね」
「ありがとう。行ってくるわ」


 さあ、今からレオ様の卒業パーティーに参加です。プレゼントはもう決めてあるの。メイのアドバイスで準備をしたから不安なのだけど……レオ様、喜んでくれるかしら。