涙を(こら)えながら王宮の門を飛び出し、城壁の陰にしゃがみ込みます。

 私、ちゃんとレオ様に御礼を伝えられたかしら。新しい婚約者様との幸せを願っていると伝えられたかしら。
 ザミニ石のネックレスをお返ししたから、私から婚約破棄をしたいという気持ちは伝わったはずです。

 レオ様、どうぞお幸せに。
 私は少し旅行にでも出て、気持ちを切り替えてこようと思います。

 ひとしきり声を殺して泣いたあと、少し離れた場所で私を待ってくれているお兄様の元に向かって、夜道を歩き始めました。

 ん? 暗闇の向こうから、なんとなく人の声が聞こえますね。一人……いいえ、二人? この道には城壁以外に何もありませんから、隠れられそうにないですね。このまま鉢合わせしてしまいそうです。
 こんな時間に夜道を走ってくるなんて、一体何者なのでしょうか。

 恐怖のあまりキョロキョロしていると、遠くから私の名を呼ぶ声が聞こえました。何? 私の知り合いですか?


「……レット……!」
「…………コレット様!」


 えっ、怖い。
 ドタドタと走って来るのは誰? じっと目をこらして、声の主の方を見つめます。

 あれは……

 もしかして、メイ様?! そして、マティアスじゃないの!