レオ様の新しい婚約者。

 国王陛下にお叱りを受けたあの日、陛下の隣にいた宰相様の言葉が脳裏によぎります。


 ――『このままコレット・リード公爵令嬢に悪い噂が流れるようならば、この婚約も見直さなければならないと、陛下は仰っているのですよ』


 まさかあの時は、こんなにすぐに私との婚約破棄の話が動くなんて想像もしていませんでした。

 リード公爵家の方から、レオ様との婚約破棄を申し出る。
 それがレオ様を守る手段であり、王家の名誉を守ることに繋がる。

 とても悲しいけれど、私のような悪役令嬢は身を引くべきだと思います。それが、乙女ゲームにおける悪役令嬢の運命なのです。
 お父様にお願いして、レオ様との婚約破棄を進めようと思います。
 私の勝手な我儘で、「レオ様に飽きたのよ」とでも言っておきましょう。浅はかな悪役令嬢っぽくて良いセリフです。

 でも、どうしても最後にレオ様に会いたい。
 今更、私の気持ちを伝えることは叶わないけれど。
 最後にレオ様にきちんと、これまでの御礼の気持ちを伝えたい。

 ちょうどもう一つ、レオ様に会う手段を思いだしたんです。
 夜にこっそり王宮に行って、裏口から使用人の皆様に取り次いでもらうのです。日中お忙しくても、きっと夜ならばレオ様も王宮にいらっしゃるはず。
 少々非常識な方法ですが、背に腹は代えられません。

 そして、レオ様から頂いたネックレスとムーンライトフラワーの鉢植えを返そうと思います。きっと、新しい婚約者であるメイ様にお渡しになるはずですから。
 本当は、今日マティアスがムーンライトフラワーを直接受け取りにくると言っていました。マティアスの言う通り、レオ様にお返し頂くように頼もうかとも思ったのですが、やっぱりどうしても私から直接お返ししたい。
 レオ様に会う口実にできるもの。

 これを返せばレオ様とはお別れだと理解している自分と、明日レオ様が私を引き留めてくれるんじゃないかと期待をしている自分がいます。

 全ルートつぶしたはずなのに、結局今ヒロインは、王太子ルートに入っている。どう頑張っても、私とレオ様が結ばれる未来は存在しなかったのですね。