「ねえ、マティアス! あなたって、コレット様の事好きだったんじゃないの?諦めたの?」

 こんな会話から始まった、乙女ゲーム『ムーンライト・プリンセス』のヒロイン、メイとの関係。一体この子はどれだけコレットを目の敵にしたら気が済むんだろう。

 夏の休暇中にも関わらず学園の図書館で過ごしていると、いつもの場所でばったりヒロインに出くわしてしまった。
 この子、レオのこと狙ってるんだよな?
 僕のことも追い回してないか?


「マティアス、この休暇中が勝負だと思わない? コレット様はレオと頻繁には会えなくなるでしょう? その間に、コレット様に不安の種を色々と植え付ける予定なの。あの二人の間に亀裂を入れるのに協力して」
「……君は、そうまでしてレオを手に入れたいの?」


 しまった。彼女の話なんて無視すればよかったのに、ついつい話に乗ってしまった。ヒロインはニヤリと笑みを浮かべる。


「当然でしょ。でも、私だけに責任を押し付けないでよね! 貴方だって、レオとコレット様を引き離したいのよね? 小さい頃からコレット様のこと好きだったんでしょ?」
「それはそうだけど、別にコレットを苦しめたいわけじゃないんだ。コレットがレオと結婚して幸せになれるなら、応援しようと思ってた……」
「マティアス! どんだけ偽善者なのよ! いい? レオと結ばれるべきは、ヒロインである私。悪役令嬢のコレット様に、幸せになる道なんてないの。どうしてもコレット様を幸せにしたいのなら、レオとコレット様を引き離して、貴方がコレット様を幸せにするしかないのよ」
「僕が……?」


 聞いてあきれる。よくもこんなにスラスラと悪いセリフが出てくるものだ。僕の初恋までも利用するなんて。

 ヒロインは隣の椅子に座り、上目遣いで僕を見た。元々小芝居の上手な人だなと思っていたけど、こういうちょっとした仕草に舞台女優っぽさを感じる。だから彼女の言うことは、嘘みたいなことも事実かのように聞こえるんだ。