街に残っていた騎士たちが魔獣をロンベルクの森へ誘導し、街もシャゼルの星型要塞も警告が解かれた。一週間ほどの避難生活は完璧な準備と使用人たちのはからいで何の問題もなく過ごすことができた。

 私の心配は森に向かった騎士たち、そしてユーリ様のこと。

 戦いの場が森に移っただけで、まだ危険が去ったわけではない。いつもの生活に戻ってから数日、私もウォルターも使用人たちも、森に入った騎士団たちの伝令を待ち続ける。

 そしてもう一つ私の心に引っかかっているのは、お母様のことだ。

 避難する前に、ヴァレリー伯爵家にいる侍女のグレースに手紙を出した。とっくに向こうに手紙は届いているはずだ。グレースのことだから、すぐに返事も書いてくれていると思う。しかし、魔獣出没の混乱で、ロンベルク宛の郵便はまだ屋敷には届いていないのだった。


「私には待つしかできないのね……」


 スミレの咲く庭園がよく見える窓際で佇む私に、向かいに立つウォルターがにっこりと微笑む。


「奥様、お母様はきっと無事です。そしてユーリ様たちも、もっと厳しい戦いを乗り越えてきた屈強な騎士団ですから。今回は第二王子もいませんし、自由に戦っていると思いますよ」


 やはりウォルターの言葉にはいつも、ちょっとしたブラックジョークが含まれている気がする。第二王子殿下を守ろうとしてリカルド様はケガをした……と言われているのだものね。本人は殿下を守ったつもりはなかったようだけど。
 何かを守りながら戦うのは、ウォルターの言う通り大変なことだと思う。ロンベルク騎士団は無下に魔獣たちを倒すのではなく、できるだけ浄化して命を守ろうとしている。だからやっぱり、私が彼らを心配する気持ちに変わりはない。